2018年に創業100周年を迎える、パナソニック流の宣伝に迫る対談。第4回は「家事の広告篇」です。洗濯機や掃除機、アイロンなど生活に密着した個々の家電が、日常をどのように変えるのか。生活者目線を大切にし、複数の商品を一貫したコンセプトで括りながら広告をしてきました。今回は、約10年にわたり生活家電の広告に出演された女優・三田佳子さんと、同社の広告制作に長年携わってきた元電通・美堂恒男さんの対談です。
家事を楽しむ陽気で明るいお母さんに親近感
-三田さんが出演された家電のCMは100本を超えます。なかでも印象に残っているものはありますか。
三田:どれも懐かしいですが、最初に出演した掃除機「キャニスター」のCMです。
美堂:このCMは三田さん扮するお母さんが、掃除機をかけながらズッコケる、というコミカルなシーンがありました。
三田:このシーンは役者としてのチャレンジだと覚悟を決めて臨みました。カメラのほうを向きながら、画面に収まるように転ぶのは、実は難しいのです。でもお客さまからはこのCMが好評でした。
美堂:この難しいシーンも見事に一発OKでしたね。大河ドラマで主演もされる三田さんの、いつもと違った魅力を引き出して、どれだけ親近感を持たせられるか。それが企画で実現したいことでした。
三田:女優だからできるドラマチックなものをCMの世界で表現したい。そう思ってお母さんの役柄をつくっていきました。リボン付きの髪型や明るい色の服装も、陽気で天真らんまんなキャラクターに合っていて、その世界観を楽しみに見てくださる方がたくさんいました。CMは、お客さまに届き、しかも売れることが絶対条件。商品に人気が出て安心しましたし、やりがいもありました。
美堂:掃除機、アイロン、洗濯機と実に様々な家電の広告に出演されましたよね。10年出演され続けたというのは異例の長さです。商品は多岐にわたり特長もそれぞれありますから、三田さんに出演していただいた一連の広告が定着するまでは、商品別に色を出すようにしていました。掃除機なら三田さんとご近所の奥さんとの掛け合いを毎回入れる、洗濯機では子どもとのやりとり、アイロンでは歌ってもらう、といった形です。シリーズが定着してからは自由な発想で新しい企画にチャレンジしていきました。
三田:アイロンのCMでは、卓球もしましたね。コードレスで軽いから、アイロンをラケット代わりにできるわよ、と。CMを見た方に、明るく家事をしようという気持ちになっていただく。それはパナソニックの商品を買おう、という気持ちにつながっていきます。反響の大きさに、宣伝の大事さが身にしみました。
美堂:そういった商品広告と同時に制作していたのが、ブランドを浸透させ、生活の奥深くまで密着させるための、ブランディング広告でした。例えば、三田さんが夫の単身赴任先を訪ねて、身の回りの世話を焼くという「単身赴任物語」という長尺のCMもそのひとつです。
三田:市川崑監督が演出のCMですね。
美堂:帰りの新幹線のホームで、妻が夫に別れを告げるシーンは今見てもいい画です。
三田:数十秒という短い間で、どれだけのドラマがつくれるか、常に挑戦していたので、楽しくて飽きなかったです。ちょっとした表情やしぐさで、単身赴任の夫を思う妻や、子どもを見守るお母さんの優しさ、家族のありようが見えてくる。そんな表現を目指して演じて、監督やパナソニックの方からOKが出ると、やって良かったと喜びを感じていました。
企業からのメッセージを生活者目線へと切り替える
美堂:三田さんがパナソニックのCMに出演され始めた当時はバブル全盛期。技術革新もされ、新しい商品の広告は、面白く自由に表現できました。その後、バブル景気の直後につくったのが、三田さんが暮らしの知恵を紹介する「目指せプロのママ」シリーズ。これもブランディングが目的でした。
企業からのメッセージを伝えるだけではなく、例えばコンタクトレンズを落としたら掃除機のノズルにストッキングをつけて吸い取れば見つかる、といった生活者の視点からプラスになることを伝えています。パナソニックは、長年ラジオ番組で生活や季節の情報を提供していて、生活者の視点を大切にする伝統があります。「プロのママ」シリーズはその原点に戻ったとも言えます。
三田:CMの内容は時代に直結するんですよね。今どういうものが要求され、また飽きられてしまっているか。その条件に合わせてつくられていますね。
美堂:パナソニックは生活に近い商品をつくっているからこそ、常に社会に目を向けていかなければならないのだと思います。技術者が思いを込めてつくった個々の商品を、宣伝部門の方は、生活者に目線を変えて、表現していくプロでした。
-ほかにはないパナソニック流の宣伝とは、何だと思いますか。
美堂:いいものをつくるためなら、どんどん変えていっていい。それがパナソニックの考え方だと思います。撮影現場で、三田さんの表情はこっちがいい、オチはあちらにしよう、といった具合に、当初の企画から変わっても、いいものを採用していただけました。それだけ自由度、やりがいがあったということです。
三田:新しい表現に挑戦していく自由度は、時代の勢いもありましたよね。撮影で求められたのは、テンポと明るさ。当時のCMを今見返しても、いい明るさです。
美堂:当時のパナソニックの宣伝部門には、面白いことをやろうという雰囲気があふれていました。とりわけ制作には個性的な方がいらっしゃって、多彩な企画が生まれましたね。
-創業100周年を迎えるパナソニックは、家電にとどまらず、住宅や街へ取り組みを広げています。今後、パナソニックに対して期待することは何でしょうか。
美堂:商品の魅力はもちろん、人の生活、感性をもっと掘り下げて、表現の可能性を探ってほしいですね。先鋭的な広告を期待しています。それは家電だけでなく、街や企業広告といったフィールドでも、同じことが言えると思います。
三田:時代は超高齢社会に突入しましたが、元気な高齢者がパナソニックの最新の商品にどう興味を持ち、使いこなすのかは気になるところです。世界中には、前向きに生きようとするパワフルで尊敬できる、おしゃれな高齢者がたくさんいます。広告を通じてその元気を発信していくことで、世の中が明るくなるのではないでしょうか。そうした世界を表現者として演じてみたいですね。
Future くらしの課題解決を続けた100年
パナソニックは創業から生活家電で「日常生活のお困りごと」を解決してきました。1927年に発売した「スーパーアイロン」はアイロンがまだ高級品であった当時、リーズナブルな価格で広く普及しました。洗濯機や掃除機は、家事の主役であった女性の手間を大幅に減らし、社会進出を後押ししました。また、地球温暖化が社会的に課題となり、各家庭でもエコへの意識が高まったときには、家電自身が電力消費をコントロールする「エコナビ」で、がんばり過ぎないエコを実現しました。
創業から間もなく100年を迎える今、海外でも各国の事情に沿った、くらしのお困りごとの解決を目指しています。また、そのマインドは、BtoBでも「ソリューション(解決)」で息づいています。くらしの課題解決のために進化を続けてきたパナソニックの家事家電。100年を迎えた先も、お困りごとがあるかぎり、進化を続けます。