ネット広告へのシフトが始まっているとは言え、今も圧倒的なウエイトを占めるのがテレビCMだ。企業のマーケティング活動自体がデジタルシフトする中で、先進企業では予算の多くを占めるテレビCM活用における変革が始まっている。
デジタル、データを活用し テレビの広告効果を高める
デジタルが企業のマーケティング活動の基盤となりつつある昨今。オフラインの施策においても、デジタルを絡めた効果・分析を志向する企業が増えてきた。それに伴い、オフライン施策の予算の大半を占める、テレビCMに対する評価の視座も変わりつつある。
5月23日、独自調査したデータを基にテレビ視聴データ分析サービスを提供する、スイッチ・メディア・ラボはテレビCMを効果的に活用している企業による事例紹介を交え、効果的・最適なテレビのマーケティング活用のあり方について考えるセミナーを開催した。
セミナーは3部構成で実施。第1部には「ライオンの宣伝戦略とデータ分析」をテーマにライオン 宣伝部長の小和田みどり氏が登壇した。小和田氏は「現代の消費者は様々な手段で、断続的・横断的に接触しているため、デジタル・非デジタルの区別なく全体を俯瞰したコミュニケーション戦略が必要」とし、統合的なコミュニケーション戦略を策定した上で、使用する各メディアの特性に合わせたKPIを設定し、効果検証を行う同社の取り組みを紹介した。
さらにライオンではテレビCMの効果検証についても、デジタル活用に取り組んでいる。「マーケティング戦略がより緻密になる中で、従来の視聴率やGRPに代わる、新しいデータ活用を模索している」と言い、テレビCM出稿時や直後のデジタル上での検索、サイト訪問を始めとしたユーザー行動の分析、アイトラッキングを活用した視聴行動分析データなどの活用ケースを紹介した。
緻密な出稿プランニングに必要となるデータの存在
続く第2部には、スイッチ・メディア・ラボ 代表取締役の福羽泰紀氏が登壇。「CM効果を可視化する、テレビ視聴データ分析」をテーマに2012年10月の会社設立以来、テレビ視聴データの新たな事業創造に取り組んできた同社の最新知見を披露した。
スイッチ・メディア・ラボは、2014年10月から独自調査をしたテレビ視聴データ分析サービス「SMART」を提供しているが、細かなターゲティングが可能で効果の可視化も容易なネット広告が浸透する中で、改めてテレビCM活用について、課題感を抱く企業は年々増えているという。
代表的な課題は「検証結果が出るまでに約1カ月を費やし、時間がかかる」「競合の出稿状況が分からない」「ブランドターゲットにリーチするための出稿プランニングに必要なデータがない」の3つ。そこでスイッチ・メディア・ラボでは160項目にわたる分析属性に回答した、個人5000、世帯2000の独自大規模サンプルを対象に、秒単位で収集されたデータのリアルタイム分析を行える体制を整えている。
「当社のデータを基に、ブランドターゲット含有率を3%上げるメディアプランニングを実施した、年間のテレビ出稿額が20億円の企業が年間で1億1千万円の出稿額改善につながるケースなどもある」と福羽氏は広告予算の中でも大きなウエイトを占めるテレビ予算の最適化が、もたらす影響の大きさを説明した。
また近年、若年層を中心にテレビだけではリーチしづらい層が広がる中、テレビとネットを組み合わせた、適切なメディアプランニングを志向する企業も増えている。同社ではテレビCMとネット広告の接触状況をシングルソースデータで分析しているため、テレビCMでリーチできなかった層をリアルタイムに把握しながら、ネット広告出稿で補完するようなダイナミックな広告施策が可能になるとしている。
先進企業はテレビの使い方も進化
第3部では「あらためて考えるCM効果とその評価・分析のあり方」をテーマにパネルディスカッションを実施。ライオンの小和田氏、スイッチ・メディア・ラボの福羽氏の他、森永乳業 マーケティングコミュニケーション部 部長の寺田文明氏、メルカリ プロモーショングループ シニアマーケティングスペシャリストの鋤柄直哉氏が参加。各社のテレビCMの最近の活用ケースを紹介しつつ、ディスカッションを行った。
新商品からロングセラーまで多様な商品群を抱える森永乳業の寺田氏は、「第1部のライオン小和田氏の取り組みには、共感する点が多かった」と話した。森永乳業では多様な商品群を「イントロダクション」、「ブランド成長(キャズム超え)」、「ブランディング」、「ロングセラー」の4つのブランドステージに分け、そのステージ別にコミュニケーション戦略とメディア選択の考え方を決めている。
「ブランド成長、イントロダクションのステージでは、テレビの活用が必要と考えている。このようにコミュニケーション戦略を体系化することができたのは、これまで蓄積してきたデータを分析したから」と、テレビを始めとするオフラインチャネルにおいてもデータ分析の必要性に言及した。
2013年のサービス開始の翌年から、テレビCMを出稿しているメルカリでは初期は認知向上と機能訴求に重点を置いていたという。「初めてテレビCMを放映した2014年には、デジタルマーケティングのユーザー獲得数が前月比で約3倍に増加するなど、目に見える効果があった。
しかしダウンロードの母数が増えた今、CMによる獲得効果は以前よりも見えづらくなっている」とし、テレビ活用も次なるステージに入っていると話した。現在もテレビで潜在層への認知を広げ、ネット広告で刈り取るという全体設計を意識しているというが、認知と「フリマアプリと言えばメルカリ」というマインドシェアの醸成という目的も加えているという。それに伴い、クリエイティブも機能訴求からユーザー視点のメリットの訴求に内容を進化させている。
ロングセラーを多く抱える企業も、急成長のスタートアップ企業もそれぞれの目的でテレビを活用している。福羽氏は「メディア環境が変化した今も、新商品の発売時、企業ブランドの浸透において、テレビの持つ力は絶大。時代の先端を行く企業こそ、テレビの特性を理解した上で、デジタルやデータも活用し、マーケティングに有効活用している」とセミナーを締めくくった。
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