モバイル決済をはじめとする新しいサービスが浸透すると、小売業のマーケティングも変化していく。FinTechの持つ可能性について、オイシックス 執行役員 統合マーケティング部 部長の奥谷孝司氏に聞いた。
現金を介さない決済が購入へのハードルを下げる
FinTechの浸透が小売業に与える影響で、最も注目しているのは決済に関するイノベーションです。それによって消費者に「シームレスな購買体験」を提供できるのではないかと考えています。消費者の体験を想像してみましょう。店内に入り、自分の欲しい商品を探して、レジまで運ぶ。
そして現金やクレジットカードで支払うという旧来からの体験。それが例えば、アプリに搭載された決済機能で、スマートフォンをかざして購入するという体験に変化しています。さらに「Amazon GO」の世界観のように、専用アプリをダウンロードすれば、商品を選んで、そのまま店舗を出ると自動的に決済されている、という未来が見えてきました。
私は毎朝、iPhoneだけでスタバの支払いができる専用ケース「スターバックスタッチ」でコーヒーを買っています。自動で3000円チャージされて便利ですし、毎朝買っても、実際のお財布の中の現金は減らないわけです。現金を介さない決済は、少なからず購入へのハードルを下げています。小売業にとって、モバイル決済に代表される新しいテクノロジーを導入した「シームレスな購買体験」の提供は、購買意欲を高めるという重要なカギになるのです。
ただ消費者側も決済行動が見えなくなることに、当然ながらリスクを感じています。出費がかさまないように意識することはもちろん、安全性や信頼性、そして使いやすさを求めます。そうした消費者側からの課題をクリアしなければ、FinTechは普及していきません。
すでに米国では、新しい金融テクノロジーを普及させていくための過程を調べた学術研究があります。それによると、アーリーアダプター層はサービスへの「知識の有無」で導入を決定しますが、レイトマジョリティー層は「使いやすさ」が判断基準になるようです。
家計簿アプリが普及していくなかで、ノートに家計簿をつけ続ける人もいるわけで、サービスを広めていくためには新しいサービスがどう普及し、受容されていくのかの研究が必要です。企業側が課題を正しく把握し、解消できるかが試されます。
顧客をリアルタイムにターゲティング可能に
FinTechの浸透は、小売業のマーケティングにとってチャンスです。それは消費者の購買データと行動データの両方を、取得できる可能性があるからです。例えば、私がスターバックスで決済アプリを使って購入した後、タクシーに乗って渋谷に向かったとします。そのタクシーの支払も、同じアプリを使います。すると、スマートフォンは位置情報も取得しているため、アプリを提供している企業は、コーヒー購入後に私が渋谷まで移動したことを認識できるわけです。
従来のクレジットカード会社もコーヒーを購入し、その後にタクシーを利用したことまでは分かりますが、位置情報までは取得できませんでした ...