テレビCMからソーシャルメディアの投稿まで、消費者との接点が格段に増えたことで、おのずと広告・コンテンツ制作が必要とされる場面も、そのバラエティが広がっています。担当者自らに制作スキルが求められるもの、外部のパートナーのディレクション力が求められるものがありますが、本特集では双方を織り交ぜながら、1年にわたって、特にアウトプットの完成度を高める実践的ノウハウ・考え方を解説していきます。
動画制作ディレクションの基本
一言で「動画」といっても、その用途や目的によって活用シーンはさまざま。多様なデバイスも普及し、視聴環境が整ってきている今、生活者の日常に動画は身近なものとなっている。多くの動画が日々配信される中、自社の動画を見てもらうにはどうしたら良いのか。多岐にわたる活用シーンに適した動画を制作するためのディレクションのポイントとは。
- デジタル動画プロモーションは「完パケ」後が本番。その後の配信・分析・最適化を見据えた全体設計が重要。
- 仮説検証・分析の視点を織り込んだ企画や撮影の工夫で、同一コストで全体のマーケティングROIを高めることが可能。
- 撮影過程までにフィックスする要素と、編集過程以降で調整ができる要素を分けて考えること。
動画制作ディレクションのここがポイント!
初めてデジタル動画プロモーションのディレクションを行う際に、何か足がかりになる考え方がほしいと考える担当者の方も多いと思います。一方で、動画プロモーションは近年急速に拡がりつつある分野なので、次々と新しい試みが行われ情報が体系的にまとまっていない実情もあります。
動画コンテンツに持たせる役割を整理したフレームワークとしてはGoogle社が提唱する「 Hero Hub Help*」が有名ですが、制作プロセスの考え方が語られることは多くなかったかもしれません。そこで本稿では、デジタル動画の特性を最大限活かして打率を上げるための「脱・完パケ発想のデジタル動画ディレクション」についてご紹介します。
動画制作の流れとポイント
ブランドのコミュニケーション手段として動画活用を考える企業が増えていることは各種調査を見ても明らかです。オンライン、とりわけスマートフォンへの消費者接触時間のシフトやソーシャルメディアでのオンデマンド動画サービスの盛り上がり。日々の中で、手元のスマートフォンやパソコンで動画を見ない日はない、といっても過言ではなくなってきました。
消費者を取り巻く環境変化に対応したいと考える担当者が増えたことに加え、テレビCMを制作・掲載する予算はないが、デジタル動画を活用することで多くの人に自社のブランドメッセージを届けられるのでは?という現実的な期待もあるのかもしれません。
では、デジタル動画プロモーションを特徴づける要素とは?それは「検証可能なつくり方ができる」点だと考えています。これまで映像分野では「完パケ」という言葉に代表される納品ベースの考え方が主流でしたが、動画プロモーションを中心に据えた場合、映像表現さえもいよいよユーザーの反応を見ながらダイナミックに制作していくことが可能な時代に入りました。
誤解しないでいただきたいのですが、これは「とにかく安価にたくさんの本数をつくってPDCAを回そう!」という制作コストやクオリティを無視した大量制作を礼賛する話ではありません。どちらかというと、事前の準備と工夫次第で、同じ工数・同じコストで、次につながる洞察を得ながらよりよい結果を導くことができるディレクション方法についての考え方です。
ということで、脱・完パケ発想のディレクション(図1)を基に各項目ごとの重要なポイントを追っていきます。
(1)目的設定
あらゆるコミュニケーションで目的設定が重要となるのは言うまでもありません。動画のディレクションにおいても、具体的に動画を使ってどのように課題解決をしていくのかを明確にします。例えば、「商品名を認知してもらいたい」のであれば短い尺で商品名が伝わるインパクト重視の方向性になるかもしれません。「より深いブランド理解を醸成したい」場合にはある程度の時間をかけて世界観を伝える必要があります。こうしたブランドコミュニケーションの狙いに応じて、配信先メディアやKPIも変わってきます。
目的設定は表現を左右するだけではなく、その後の配信先媒体やフォーマット選定、成果分析の工程にも関わる指針となります。そのため、動画プロモーション以外での施策も振り返り、過去のプロモーションの成功・失敗傾向や、再活用できるクリエイティブアセットがあるかどうかも確認しましょう。
動画プロモーションだからといって、特別なことはありません。自社のブランド課題を整理し、ユーザーにどのような行動を取ってもらいたいと考えるのか、そして過去の知見の振り返りを行ったうえでオリエンを行うことで、グッとディレクションの精度を高めることができると思います。
(2)企画づくり≒仮説づくり
今日の動画プロモーションでは、企画づくりは仮説づくりと言い換えてもよいかもしれません。シナリオ作成・絵コンテ作成・キャスティングを行うタイミングで、仮説検証のために必要な動画素材をこの段階であらかじめ見極めておきます。ここで注意すべきは「何を検証したいのか」「そのためにはどういった表現が必要か」「判断基準は何か」を明確にしておくことです。
例として、企画時に「出演者の商品利用時の感情表現」が重要になると考えて撮影を行う場合、出演者を後から変更することは難しいですが、特定のシーンの表情やリアクションを変えたバリエーションを撮影して検証することはできます。事前にこの仮説を演出案に加えて撮影をすることで、いくつかの表現を検証する手段を得ることができます。また、配信開始後に映像表現の調整が発生する可能性があることについて、事前に関係者に対して柔軟な利用許諾を得る努力も重要です ...