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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

すべてのコピーは「ふしあわせ」から生まれる

電通 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 山田尚武氏

    コピーライティングのここがポイント!

  • 広告ターゲットの愛すべき「ふしあわせ」を観察し、「しあわせ」な物語に変換する。
  • 受け手と商品にまつわる古い物語を共有し、ブランドや商品を「受け手の人生の一部」にする。
  • クライアントとターゲットの声に耳を傾け、寄り添い、言葉の処方箋をそっと差し出す。

裏にある「しあわせ」を発見すると もうひとつの物語が見える

文章の書き出しに「この商品は…」と、とりあえず書いてみて真っ白になってしまった経験はありませんか。これを私は「いいこと言わなきゃホワイトアウト症候群」と呼んでいます。いいことを言わなきゃという想いが先走りすぎて、フリーズしてしまう症状。これは親に気に入られようと、良い子を演じているうちに自分の言葉を失ってしまう子供のケースに似ています。

このとき、書き手は「いいこと=しあわせ」にとらわれてしまっているのです。しあわせな人のしあわせなシーンを想像して言ってあげるべきことは、あまりありません。しあわせな人に「しあわせにしてみせる」と言っても意味がないのと同じで、「しあわせ」に対して言葉は存在価値がないのです。私はコピーを書きはじめる前に、広告主の、広告ターゲットの愛すべき「ふしあわせ」をじっと観察することにしています。

私は大学の専攻だった心理学を活かしたいとコピーライターの職を選びました。就職してからも臨床心理士の養成学校へ通ったり、心理学の専門書を読み漁ったり。なんとか広告に心理学の技が活かせないかと。ぜひ、コピーライターをめざす皆さんにご紹介したい手法の一つに「物語療法(ナラティブ・セラピー)」があります。

もともとPTSD(トラウマ)の治療のために発展した治療法ですが、誰にでも取り扱い可能で、今ではビジネス組織マネジメントの領域でも取り入れられています。その作法とは「ストーリーの変換」です。簡単にいうと、セラピストとの対話を通じ、クライアント(相談者のことですが、広告でも得意先のことをそう呼びますね)の「ふしあわせ」な物語の影に隠れている「しあわせ」な物語へと変換していきます。

物語療法の典型的な例です。登校拒否の女子中学生の話です。小さい頃から母親に叱られてばかり。学校でも仲間外れにされ「生きている理由がない」と。セラピストは彼女の「ふしあわせ」の裏側に隠されている「しあわせ」に本人が気づくまで根気よく面談を続けます。そして、あるとき彼女は封印されていた幼い頃のお母さんに愛されていた記憶を思い出します。まもなく、彼女は元気に学校へ通いはじめます。

「ふしあわせ」の裏にあった「愛されている私」の発見で、「母親に拒絶され、何をやってもダメなわたし」は、「母親の愛に見守られて、がんばる私」へストーリー変換されました。

このクライアントとセラピストの関係は、広告に置き換えられます。ブランドや商品のまわりにあるネガティブ・インサイトの中に「封印されているしあわせ」の発見から「ストーリー変換」が生まれ、それがコピーという名の処方箋になります。私がお手伝いさせていただいたアステラス製薬「病気が教えてくれたこと」エッセイコンテストの事例を紹介します。

この事例では、病気と闘う患者さんの目線に立ったキャンペーンができないか、がテーマでした。患者さんの目線に立つ。言葉で言うほど簡単ではありません。生死に関わる病気も含まれます。製薬会社としてコミットできる領域も限られています。ネットや書籍で語られる「大病・難病」を経験した数多くの患者さんの声を片っ端からあたってみました。その中で意外な声を見つけました。

「病気になったおかげで…」とコメントしている方が多く存在したのです。普通なら人生の大切なものを奪う、憎むべき「病気」。しかし「病気」のおかげで、あたりまえに生きていることのすばらしさ。愛する人がそばにいることへの感謝。いのちの大切さを知ることができた。「病気への感謝」という意外な「ストーリー変換」の声をもとに、キャンペーンワードをつくりました。「病気が教えてくれたこと」です。

これをもとに、エッセイコンテストを実施。数か月で1万を超える作品の応募があり、書籍化にいたりました。とある看護学校では教科書として使われているそうです。入賞作は「こころの辞典」として、今でもアステラス製薬のホームページで閲覧できます。

事例 アステラス製薬「病気が教えてくれたこと」エッセイコンテスト

「意外なしあわせ」は消費者の心を動かす

明治のバレンタインデーの新聞原稿では、ボディコピーで「ストーリー変換」を試みました。クライアントの悩みは、少子化によるチョコレート消費量の減少でした。お題は「チョコレートの最需要期であるバレンタインデーに家族でもっとチョコレートを」。

バレンタインデーでの家族のチョコレートのやりとりを調べると皆無。せいぜい、「余ったチョコレートをお父さんに」という惨状でした。この状況を「ストーリー変換」できないか。欧米でのチョコレートに対するインサイトを調べていたら素敵な言葉を見つけました。「チョコレートは恋愛の代用品である。」このメッセージを処方することにしました。「家族に恋愛」という「意外なしあわせ」を物語にしました。

「私は、『その人』との約束を破った。生まれて初めて愛した異性。生まれて初めてバレンタインデーに、チョコレートを贈った相手。完璧な人生の先輩。愛妻の存在は知っていたけど、私は本気だった。なのに、だんだん欠点が見え始めた。大切な時に、仕事。束縛。年下の私をいつまでも子供あつかいすることにも我慢できなくなった。会話が途切れた。長い年月…。そして大学を出た私には、他に好きな人が。どこか『その人』に似ていた。結婚を決意。『その人』は黙っているだけだった。式は、2月14日。新しい恋人に私が愛を告白した日。その朝、『その人』と二人きりで会い、お別れのチョコレートを贈った。『約束を破ってごめんね』という言葉に、『その人』と私は数年ぶりの笑顔をかわした。バージンロードへ向かう私は、守れなかった『約束』を心の中で繰り返していた。『大きくなったらパパのお嫁さんになるの』チョコレートで、愛を伝える日。チョコレートは、明治 ...

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