仲畑貴志氏と糸井重里氏に聞く-「なぜこの道を選んだの?」
1957年に開講になった「宣伝会議コピーライター養成講座」は、今年で60周年を迎えます。これまでに5万名以上が修了、111期まで数を重ねてきました。今回は、「宣伝会議コピーライター養成講座」16期修了生の仲畑貴志さん、18期修了生の糸井重里さんのお二人に、当時を振り返っていただきました。
超・コピーライター
世の中の変化に合わせて、コピーライターが活躍する機会は増え、領域は広がり続けています。「ソーシャルメディア時代」「地域活性」「デジタル」「若者心理」「働き方改革」という5つのキーワードを立て、各領域の有識者の皆さんとの対談を通じて、これからの"コピーライター"に求められる役割を考えました。
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久保:私は、女の子たちが自分を「盛る(=外見を加工し公開する)」技術とそれが生み出す文化を研究しています。研究テーマとして掲げているのが「シンデレラテクノロジー」。女子高生たちがネット上に投稿している画像を分析するほか、実際に彼女たちに会いながら、フィールド調査も行っています。フィールド調査では、独自に開発した撮影装置を頭部に装着してもらい、化粧の過程を動画撮影するなど、主観が入らない工学的な調査手法も模索しているところです。
三島:「シンデレラテクノロジー」は、どこから生まれた言葉なのですか?
久保:私がつくった造語です。盛る技術には「外見を変える機能」と「人に見せる機能」の両側面があります。それはつまり「加工する技術」と「公開する技術」に言い換えられる。シンデレラが魔法使いのおばあさんに変身させてもらったのが「加工する技術」で、かぼちゃの馬車で舞踏会に行くのが「公開する技術」にあたります。
かつての「盛る」は儚いもので、親や有力なスポンサーの支援を受けられる一握りの人にしか、できないことでした。それが今では、プリクラや画像アプリで変身し、不特定多数が注目するSNSのステージに立ち、誰もが簡単にいつまででも盛ることができるようになったんです。
三島:確かに、「盛る」にはどこか謙虚で儚げなニュアンスがありますね。ありのままではなく魔法によって実現した自分という。現実と非現実の間と言いますか。
久保:そうなんですよ。「盛る」という言葉がいつ頃から出てきたのかを調べてみると、メディアでは2003年に女性ファッション誌の『Ranzuki』に登場したのが、どうやら最初。でも編集部に話を聞くと女の子たちが使っていた言葉を拾い上げたと言うし、女の子たちのプリクラ帳を見てもやっぱり雑誌に登場する前から使っていることが分かる。ちょうど女の子の間にデジタル技術が普及して、簡単に画像処理ができるようになった頃。
自分の顔写真を「かわいいでしょ」と見せるわけにはいかないので「盛れてるでしょ」と言ったのではないかと思うのです。彼女たちの言語感覚は、まさに彼女たちが置かれた立場を的確に言い表しているんですよ。
それに、今ではいつまでも盛ることができるようになったのに、ちゃんと自分たちで「卒業」を設けて儚さを演じているところも面白くて。3月の卒業シーズンの時期には、自分たちを「ラストJK」「高校生ブランド閉店セール中」などと表現していて、そこには一抹のさみしさとユーモアの感覚があります。
三島:フィールドワークの際、女子高生たちに普段どんなメディアを見ているのかなどは聞いたりしますか。
久保:はい。情報の送受信としてはやはりTwitterが使われている傾向が強いですね。ファッションやメイクの情報に関しては雑誌やテレビもよく見ているようです。以前は少し手を伸ばせば届きそうな読者モデルやブロガーが人気で、ノウハウを知るために彼女たちのブログを追いかけている傾向があったのですが、最近はテレビに出ているモデルなどに注目が移りつつあります。メイクの仕方みたいなノウハウを得るだけが目的ならYouTubeの動画を見ればよくて、そうではない世間の"雰囲気"や"世界観"を感じるための手段としてテレビや雑誌を利用しているようです。
久保:彼女たちの目的は「盛る」こと自体にあるのではなく、コミュニケーションにあります。「盛る」技術は顔を均一化するので、似たような顔になっていきます。なので、私も以前からなぜ日本の女の子は、皆そっくりな顔にするのか疑問に思っていたんです。それで「何で盛るの?」と女の子に会うたびに尋ねていました。
するとはじめは皆、自分でもなぜか分からず困惑するけど、最後には揃って「自分らしくありたいから」と答えるんですよ。皆とそっくりな顔をして「人と一緒はイヤ」と言う。そのくせ好きなブランドを聞くと判で押したように一緒。
三島:違おうとしながら似るという矛盾はとても面白いですね。
久保:その謎に迫るためにフィールドワークを始めたのですが、彼女たちにプリクラを撮る理由を聞くと「プリクラはトレーニング、努力こそすべて」と言います。プリクラの機種ごとにあるわずかなシャッタータイミングや画像処理技術の違いを感じ取るからこそ機種に合わせた目の見開き方をするし、付けまつげにしても同じで、ドラッグストアで色々調べた結果、数種類を切り貼りしてカスタマイズしたりする。そういう過程を理解してから女の子たちの顔を見ると、確かに個性があるんですね。
これは同じ知識をもったコミュニティ内でのみ理解される微差の文化。だからこそ、知らなければまったく同じに見える。彼女たちは …