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マーケターのキャリアデザイン

スタートアップに学ぶ!「デジタルエフェクチュエーション」とは

栗木 契(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)

市場環境が目まぐるしく変化する昨今、調査・検証の時間と労力をかける従来型のマーケティングでは、市場の動きに対応し切れず、勝機を逃すことにもなりかねません。直感で行動しながら検証をする――これを繰り返し、市場ニーズにアジャストしていく「エフェクチュエーション」は、デジタル時代のマーケターにとって不可欠のアプローチです。

    デジタルエフェクチュエーションのポイント

  • 戦略直感型のアプローチでは、目の前の瞬間に適用できる局所的な方法を、過去から学んだ知識も組み合わせながら編み出して、一気に実行することの有効性が強調される。
  • 「手持ちの鳥の原則」「許容可能な損失の原則」「クレイジーキルトの原則」「レモネードの原則」「飛行中のパイロットの原則」の5つの行動原則に沿ったスキルを磨く必要がある。
  • 企業がエフェクチュエーションの行動原則にしたがって、日々のマーケティングに取り組んでいくには、市場からの迅速なフィードバックや、組織内での柔軟な振り返りや意思決定が欠かせない。

デジタル技術の発展により、社会を流通する情報の質と量、さらには速度が大きく変化している。マーケティング環境の流動性は高まり、未来の市場のあり方を見通すことは一段と困難になっている。では、どうするか。未来の予測が難しいのであれば、企業は、予測が成り立たない状況の構成を踏まえて、そのなかでの合理的なマーケティングの進め方を考えてみるべきではないか。

戦略計画と戦略直感

「戦略直感(Strategic Intuition)」とは、W.ダガン氏の用語である(『ナポレオンの直感』慶應義塾大学出版会、pp.2-7、pp.18-24;『戦略は直感に従う』東洋経済新報社、pp.82-91)。ダガン氏は、ナポレオンに始まる近代軍事科学の生成期を振り返るなかで、戦略計画のアンチテーゼとなる戦略直感が、この時期に同時に芽生えていたことを指摘する。この「戦略とは何か」という問いをめぐる対立的な2つの理解は、その後に軍事科学から「戦略」の概念を取り入れた経営学やマーケティング論にも引き継がれていく。

戦略計画(Strategic Planning)では、行為の主体が、予測にしたがって目標を定め、計画的に組織を動かしていくことの有効性が強調される。I.アンゾフ氏の「企業戦略」、M.ポーター氏の「競争戦略」、そしてP.コトラー氏の「STPマーケティング」などに代表される、経営学やマーケティング論の戦略計画型のアプローチは、体系的な市場の分析と予測に基づく統合的な計画の立案と執行を、企業活動の基軸とするべきだと考えてきた。

これらに対して戦略直感型のアプローチでは、行為の主体が、状況に身を委ね、目の前の瞬間に適用できる局所的な方法を、過去から学んだ知識の組み合わせも活用しながら編み出して、一気に実行することの有効性が強調されることになる。

戦略直感型のアプローチにも一理があると思われるのは、歴史を振り返れば、データを駆使しての予測がIT産業の覇者を生み出したのではないと言えるからである。B.ゲイツ氏とP.アレン氏は、ソフトウエアが、ハードウエアから独立した巨大ビジネスになることに賭けた。この賭けが行われていなければ、今のマイクロソフトという企業は存在しない。

S.ブリン氏とL.ペイジ氏は、ポータルではなく、検索がインターネットを制することに賭けた。この賭けが行われていなければ、今のグーグルという企業は存在しない。S.ジョブズ氏は、小型化するパソコンへのGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェイス)を組み込むことに賭けた。この賭けが行われていなければ、今のアップルという企業は存在しない。

戦略直感の提唱者であるダガン氏は、これらのIT起業家が行った賭けについては、その妥当性を裏付けるようなデータ分析や予測が、起業家たちの眼前に事前に存在していたわけではないことを指摘している。この起業家たちを導いた「戦略直感」は、経営学やマーケティング論における、戦略計画型のアプローチへのアンチテーゼであるとともに、ビジョナリー型や逐次適応型の戦略論を包摂する位置づけにある概念と捉えることができる。

戦略計画の前提条件

マーケティング論の領域における代表的な戦略計画型のアプローチであるP.コトラー氏の「STPマーケティング」は …

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