データを駆使したデジタル時代のマーケティングへとシフトしていく時代、マス広告を中心としたメディアバイイングと制作を担ってきた、広告部や宣伝部はどのような役割を担い得るのでしょうか。また、宣伝部・広告部のメンバー一人ひとりが身に付けるべき知識やスキル、視点・姿勢とは。「宣伝部のリ・ポジショニング」を考えます。
- マーケティング・コミュニケーション施策を推進するスキルは、IT機器のソフトウェア構造に例えて言えば、基本司令を司るOSと、何かの目的を具体的に実行するためのアプリケーションの2つに大別できる。
- 経営層から評価が高く、優れた広告宣伝部およびスタッフは、OSとアプリの両方がバランス良く高次元な水準にある。特にOSスキルの強化が、宣伝部と経営層の相互の不満解消の鍵となる。
- 企業内でマーケティング・コミュニケーションの部署や関係者が評価され、出世していくには、施策の成果と費用対効果を形式知として蓄積し、経営層に報告するプロセスにおいて信頼を勝ち得ていくことが重要な鍵。
レガシー宣伝部 リ・ポジショニングのポイント
経営における宣伝部とは最後の「ブラックボックス」
私はブランド・マーケティング領域の戦略コンサルタントとして長年活動しているが、マーケティング業界の知人たちから「どんな知識を身に付ければマーケティング専門職として人材価値が上がるのか?」「専門性も高まり、ヒットも生み出したし、業界紙でも評価されているが、社内評価はそこまで上がらない」というようなキャリア構築の悩み相談をいただくことが多く、その中には社内評価における不満や今後のキャリア見通しへの不安の声も混ざる。
これまで累計100名近いマーケティング業界関係者方のキャリア相談に対応しているうちに実感したことだが、世の中にはマーケティング戦略~施策の専門知識解説の本はたくさんあるものの、『マーケティングの専門職として市場価値を高める』、『事業会社内でビジネスパーソンとして評価され出世する』、『社内で広告宣伝部としての存在感を高める』というような、「マーケティング職の評価を高めるマーケティング戦略」と呼べるような情報は広く流通しておらず、実に多くの方が頭を悩ませていると感じている。
同時に、私は戦略コンサルタントという仕事柄、多くの企業経営者と触れているなかで「社内の投資のなかで、広告宣伝投資だけは費用が巨額なのに、ブラックボックスで費用対効果が見えにくい」「スタッフや業務プロセスが生み出している価値の評価も難しい。彼らなりに理論武装して必要性や成果を主張してくるが、広告会社に都合の良い理屈で丸め込まれている疑いを持ってしまう」「デジタルの最新手法やツールへの投資を上申されるが、目的や成果期待が曖昧で意思決定がしにくい」など、細かなニュアンスはそれぞれ異なるが、経営層の多くは「広告宣伝部は経営における最後のブラックボックス」と捉え、苦手意識とストレスを感じている。
一般論として、広告宣伝部と経営層は相互の理解が弱く、不幸なことに互いに不信感を持っていることが多い。もちろん、この原因は、経営側のマーケティングや広告宣伝への理解と勉強の不足という問題も含んでおり、宣伝部側だけが悪いわけではない。しかし、その良し悪しは置いておき、不信感を生み出す『すれ違い』の本質を知ることが解決への第一歩となるし、本稿のテーマとなる。
マーケティングのスキルはOSとアプリに大別できる
マーケティング・コミュニケーション施策を推進するうえでのスキルは、PCやスマートフォンといったIT機器のソフトウェア構造に例えて言えば、基本司令を司るOS(WindowsやiOSなど)と、何かの目的を具体的に実行するためのアプリケーション(Internet Explorer やWordなど)の2つの領域に分けて考えることができる。
このOSとアプリをマーケティング・コミュニケーションの具体的な内容に置き換えると図表1のようになる。
マーケティング・コミュニケーションの「OS」とは …