広告の世界にデジタルが浸透し、コミュニケーション設計が複雑化した時代。加えて広告とPRの融合の必要性が叫ばれ、宣伝活動において、ますますアンコントローラブルな要素が増えています。前例通りが通用しない時代だからこそ、成否を左右するのは、戦略以上に実行する人の『気』の力!?これからの時代に必要とされる広告会社営業担当の仕事術を考えます。
ガムと子供たちの最初の出会いを創る
発売から30年を迎える、ロッテのロングセラー商品「ふ~せんの実ガム」はHIKAKIN、SEIKINを始めとする人気YouTuberを複数起用したWeb基点のキャンペーンを実施。一時、商品出荷が追いつかないほどの成果を上げた。このキャンペーンを企画したロッテの江口直人氏と、企画をサポートしたジェイアール東日本企画(jeki)の松村大介氏、吉村亮氏に実現までの舞台裏を聞く。
――jekiさんと仕事をするきっかけとは。
江口:今回のキャンペーンは競合コンペだったのですが、数値的根拠に基づく企画内容はもちろん、松村さんと吉村さんの提案から一生懸命さと本気度を感じたことが、jekiさんにお願いした理由です。最初の提案時から、非常に企画内容が緻密でしたし、企画を実現していく段階でも、とにかくレスポンスが早く、難しい相談にもすぐに対応してもらえたので心強かったです。
吉村:YouTuberを起用した動画制作は内容をコントロールできないので、江口さんの決断があって実現できたことだと思います。特にYouTuberの方への江口さんの事前のオリエン内容が非常に緻密でわかりやすかったので、YouTuberの世界観と商品の世界観がうまく融合し、売上につながる動画が制作できたと思います。
江口:最初は、YouTuberを起用して商品が売れるの?と半信半疑なところもありました。お二人が他社の事例なども調べてくださり、社内の理解も得ることができました。
YouTuberを起用したコンテンツでフーセンガムファンを増やす
――デジタルに軸足を置く企画は当初から、設計にあったのでしょうか。
江口:各種調査データからも今の子供たちがネットやスマホの接触が多いことは分かっていたので、デジタルの活用は最初から考えていたことでした。当初はオリジナルのアプリを開発することも考えましたが、伝えたかったのはフーセンガムを膨らませるリアルな楽しさ。アプリではガムを膨らませる行動まで喚起できないのではないか、という懸念があり、YouTuberを起用した企画を実施するに至りました。
松村:私たちが子供の頃、フーセンガムを噛むようになったのは、アメリカ人のプロ野球選手に憧れたのがきっかけでした。では、今の子供たちにとって影響力のある、憧れの存在とは誰だろう?と考える中で、YouTuberの起用が浮かびました。
吉村:今回のお仕事では江口さんをはじめとするロッテの方たちから議論を通じてたくさんのヒントをいただくことができました。ヒントの一つが、フーセンガムは親が積極的に子供に買い与えたいと思われづらいという環境。そこでYouTuberを起用しても、子どもだけにしか受けない企画ではなく、親世代も一緒に楽しめる企画が必要と考え、HIKAKINさん、SEIKINさんの兄弟で一緒に登場してもらうなど親子、姉妹や兄弟、友達で一緒に楽しめる遊び方を提案しています。
松村:YouTuberに直接リーチしづらい母親層には、雑誌やWeb広告・PRのフォローも行いました。
江口:子ども向けの商品は、意思決定者の分析が重要です。今回、当社提供データに加え、jekiさんに購入の意思決定者分析を深堀りしていただいたのですが、フーセンガムは母親からの買い与えが半分くらいを占めました。母親を説得することがキャンペーンを飛躍させる上でカギになる。そこで「レッツ!フーセンガムチャレンジ!」をテーマに、「みんなで一緒にふくらませる」ことの楽しさを伝える内容でキャンペーンが固まっていきました。
店頭を連動させたことで実購買につながった
――キャンペーン実施後、出荷が追い付かないほどの売れ行きを記録したそうですが。
江口:営業からも「ふ~せんの実が売れている!」との声が上がり、すぐに店頭回転が反応した企画でした。今回は店頭POPも連動させたことが、実購買につながったと考えています。
松村:営業の方々に企画趣旨を理解していただいたことで、店頭連動型のキャンペーンが実現できました。
江口:ガム市場の活性化のためには、子供の頃からの接点づくりが重要です。今回のキャンペーンを通じ、ガムのエントリーブランドとしての「ふ~せんの実ガム」の位置づけや役割を改めて認識することができました。今後も、中長期的な視点からもキャンペーンを企画していければと考えています。
<編集部の視点>
インフルエンサーを起用したキャンペーンは増えているが、広告と違って企業の思い通りにコンテンツをコントロールすることはできない。だからこそ、クライアントの決断やクライアントと広告会社の信頼関係が成否を分ける重要なポイントになってくる。「ふ~せんの実ガム」キャンペーンは、まさに互いの信頼関係が成果として結実したケースと言えそうだ。
本連載について
企業と消費者の関係が複雑化する中で、ビジネスの成果を上げるために、宣伝部も「広告」にとどまらず、商品がお客さまの手元に届くまでのすべてを設計する必要が生まれています。では、最前線でクライアントと接する営業担当が目指すべき進化の形とは、どのようなものでしょうか?前例通りが通用しない時代に不確実性の高い「アイデア」を形にし、ビジネスの成果につなげるためには、実は熱意、フットワークなど、人的なスキルの向上にADパーソンが目指すべき姿があるのではないか?編集部では、そんな仮説をもちました。社員数839名の組織だからこそ自分の仕事の領域にとらわれずに、仕事に向き合うジェイアール東日本企画「クライアントサービスプロジェクト」と一緒に、これからのADパーソンのクライアントとの向き合い方を考えていきます。
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