9月1日から「第31回全日本DM大賞」の作品募集が開始になりました(締切は2016年10月31日)。効果の可視化しやすいデジタルのコミュニケーション手段が増える中でDMに期待される役割とは?DM大賞最終審査委員を務める二人の対話を通じて考えます。
情報寿命が短命化する時代の「捨てられない」ことの価値
──お二人は今年、「第31回全日本DM大賞」の最終審査委員を務められます。決してDMの専門家ではなく、広くマーケティングやコミュニケーションに携わるお二人は、DMというものをどう見ていますか。
木村 僕は、DMは企業から生活者に向けた1対1のラブレターのようなものであり、そこには広告情報の原点があると思っています。デジタルが浸透したことで、生活者が1日に受け取る情報は膨大になり、多くの広告は見られないままになっている。薄く広くのコミュニケーションを効率的に実行する手段が増える中で、逆に狭くても深いDMならではのコミュニケーションが際立ってくるのではないでしょうか。
徳力 そうですね。テクノロジーの進化により、大量に情報を送ることは可能になったけれど、それが本当に生活者の心にまで届いているのか。伝えたつもりになっているだけで、伝わっているか否かの検証がなされないままに終わっている気がします。コミュニケーションの量だけでなく、質についても議論すべき段階に来ていますよね。
木村 加えて、情報の寿命が短命化しています。以前であれば、ひとつ心に突き刺さる広告をつくれれば、それが長く心に残り、結果的にブランド醸成に寄与した。しかし今は、たとえ企業のメッセージに共感してもらえたとしても、情報の新陳代謝が激しくて、すぐに忘却されてしまう。「忘れられない」とか「情報が捨てられない」ことがとても大事になってきています。
徳力 リーチだけでなくエンゲージメント。伝えるだけでなく、伝わるといった質の面まで含めて、コミュニケーションの手段を考えるべきでしょうね。
木村 コミュニケーションのアイデアでインパクトを与えて記憶に残すという方法もありますが、DMの「タンジブル」という価値を生かし、いかにして捨てられないかを考えるアプローチもあります。手元に形あるものとして残るという価値は、デジタルにはないものです。僕が好きなアイデアの一つにIKEAの事例で、店頭に来た際に写真を撮ってもらうと、次に店舗を訪れた時にその時の写真が表紙になったカタログをプレゼントしてくれる企画があるのですが、この企画には人の心理を捉えた、手元に取っておきたくなるアイデアがあります。これまでコミュニケーションの手口は「伝える」ことが中心でした。それが人間の心理を理解し、生活者が動く『ツボ』を押さえられれば、『伝える』以外の選択肢も選べるようになっている。僕たちケトルが重視しているのも、このツボを見つけることです。
徳力 ソーシャルメディアもInstagramを始めとする写真が主流になってくると、『捨てられない』DMは、『シェアされる』DMとしても機能するようになるかもしれません。どんなに感動的なメッセージだったとしても、企業から届いたEメールを写真でシェアする人はそうはいない。形あるDMだと、写真を撮ってアップするという行動につながりやすいかもしれませんね。デジタル時代を逆手に取ったDMの活用アイデアも広がりそうです。
すでに知っている顧客と新しい関係をつくる手段
──効果を把握、さらには事前に予測しやすいデジタルの手段が浸透すると、DMのような手段への投資は社内での説明が難しいという課題があります。
木村 企業の広告・宣伝の現場は昨対比の売上増という目標を負っているし、明日どう情報を届けて、売上に変えるかを厳しく求められています。「3年間で成果が出るキャンペーン」なんて提案しても、なかなか通りませんよね。これからの時代には、NPS®(Net Promoter Score®)みたいな関係性やコミュニケーションの質を測る新しい指標が必要ではないでしょうか。
徳力 私たちが注力している「アンバサダープログラム」も既存のファンを対象にした活動なので、量の指標には弱い面があります。ただ、人間の直感として、質のコミュニケーションも大事なのではと感じて、挑戦してくれる人が増えてきているとは思います。
木村 届いたかどうかという表面的な話ではなく、そのアイデアで本当に人が動くのか、人の根源的なインサイトを捉えたアイデアには時として『数字』の壁を乗り越える突破力が生まれますよね。全日本DM大賞でも、人を深く理解して、人を動かすアイデアがあったかという観点で審査をしたいと思います。
徳力 こうやってDMの特性を考えていくと、新規の顧客にアプローチする手段はデジタルの浸透で急速に増えたので、むしろすでに自社のことを知っている顧客とのコミュニケーションの中で、DMの価値が発揮できる場面が増える気がします。昨年の全日本DM大賞で金賞・グランプリを受賞した、山代温泉宝生亭の「VIPのお客様は同封の〈金の名札〉をつけてお越しくださいDM」は、そうした活用の好例だと思います。私たちがアンバサダープログラムを推進するのも、ソーシャルメディアが浸透した時代には顧客がメディア化しているので、その顧客の満足度を高めることが、口コミを通じて新規顧客開拓につながると考えてのことです。これから既存顧客とのコミュニケーションを重視する企業は増えていくと思います。
──DMに対して、販売促進のための手段というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
木村 これを機にDMやダイレクトという言葉の捉え方を変えてみる必要があるかもしれません。海外の広告賞でも、ダイレクトという言葉の定義はふわっとしています。僕が2014年のADFESTでダイレクト&プロモ部門の審査委員長をした際は、ダイレクトを「ブランドと特定の生活者の新しい関係性をつくりだすアイデア」と規定しました。
徳力 形はDMだけれども感謝状だったり、挨拶状だったり……。すでにその企業を知っている人との間に、新しい関係をつくるためのアイデアが集まると面白いですね。
木村 これって、DMかな?」と思うような作品も応募してもらって、DM自体の可能性が広がる審査会になることを期待したいです。
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