今年8月、オプトと宣伝会議が共同で立ち上げた「デジタル時代のブランドコミュニケーションを考える研究会」は、2回目となる企業ディスカッションを開催。ブランディングにおけるデジタルの立ち位置や活用法について議論された。
マス広告での成功体験、メーカーが抱えるジレンマ
今回の参加企業は森永乳業、アサヒグループ食品、武田薬品工業、ヤマサ醤油、味の素ゼネラルフーヅ。いずれもマスプロダクトを有し、商品ブランディングのあり方を模索する企業だ。
昨今、複数の企業から「メディア環境の変化による消費者とのコミュニケーションの課題」について声が上がることが多い。消費者のメディア接触行動も変化しており、マスメディア中心のマーケティング活動にも疑念が生まれつつある。単純にデジタル広告への投資額を増やせば済む問題でもなく、特にマス広告での成功体験のある企業ほど、頭を悩ませている。
ディスカッションでも、「消費者といかにコミュニケーションすべきか?」が議論の中心となり、活発な意見交換がされた。その中で改めて確認されたのが、「企業としての、お客さまに伝えるべき想い(森永乳業・寺田氏)」である。ブランディングとは顧客との関係づくりである、という基本に立ち返る必要性を多くの担当者が口にしていた。マス広告はリーチが広く認知は取りやすいが、一方通行のコミュニケーションとなることが多い。これまでのマス広告に、デジタルならではのコミュニケーションを加えることで、消費者との双方向のコミュニケーションをスケールさせられるのではないか。現状のデジタルマーケティングは、コンバージョンなど短期的な成果を追いがちだが、「お客さまとの関係性の『積立貯金』『保温』のような考えで、SNSなどのデジタルを活用していくべき(ヤマサ醤油・藤村氏)」といったファンづくりを目的としたデジタルマーケティングの考えが示された。
メーカーは常に「いかにして商品の価値を伝えるか?」と向き合わなければならないが、「デジタル化がもたらしたものは多様性。消費者ごとに情報をカスタマイズし、ニーズに合わせて提供できるようになった意義は大きい(味の素ゼネラルフーヅ・三宮氏)」という意見も見られた。
顧客との直接接点を持ちづらかったメーカーが集まっての議論ということで、「メーカーとして、直接お客さまと関係を持てる接点をつくっていくべき(アサヒグループ食品・林氏)」という発言が出るなど、デジタル、中でもSNSをコミュニケーションの場とした、流通事業者に任せきりにしない、直接的な顧客接触の実現や、それに伴うブランドエクイティ向上への期待の声が多く聞かれた。
一方で販売チャネル戦略上、テレビCMなどマス広告を打たないと小売店頭の棚が取れず、商品が動かないというジレンマに悩む姿も見えてくる。「ネットで動画が数百万回再生されただけでは成功とは言えない。最終的にどれだけ売上につながったのか、冷静に見る必要がある(武田薬品工業・古賀氏)」という意見も出てきた。
大事なのはマスVSデジタルではないということ。デジタルを新たな顧客接点として活用し、各チャネルと融合させながら、いかにコミュニケーションを行っていくか、今まさに過渡期にあると言える。ゆえに潜む数々のジレンマを一つひとつどう紐解いていくのか、デジタルの活用比重や方法論の議論もこれから深まっていきそうだ。
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