常時約30のチャンネルが24時間無料放送で楽しめるインターネットテレビ局の『AbemaTV(アベマTV)』。メイク・ヘア・ビューティ・レシピなど“女子の知りたい”を動画で解決する『C CHANNEL』。『拡張するテレビ』の著者、境治が“これからの映像メディア”に関わる人間が持つべき視点を、「世代」「コンテンツ作り」「広告」などのキーワードを切り口に聞いていく。
「テレビは億劫」な時代
境:1960年代生まれの私は、「カラーテレビが家に来た」時代を知る「テレビ世代」です。お二人はどうですか。
鎮目:僕も1969年生まれで、まさに「テレビ世代」です。弟と“回る”チャンネルを争っていた世代です。
山崎:家族の中心にはテレビがありましたが、私には「テレビ世代」という感覚はありません。1984年生まれで、中学生の時には家にパソコンがあり、大学時代はmixiやブログが全盛。それ以降、ソーシャルメディアのほうに影響されています。
境:両社では、どの世代を意識してコンテンツを提供しているのでしょうか。
山崎:『C CHANNEL』のターゲットは、F1(20 ~ 35歳の女性)の中でも、特に「独身の働く女性」です。女性が求める情報は、メイクやファッションなどライフステージごとに普遍的なものがあるので、それを「1分のタテ型動画」にどう最適化できるか。そこで試行錯誤しています。
鎮目:僕が担当するニュース番組の『AbemaPrime』では、想定視聴者を20代としています。「テレビを見るのは億劫だけど、ニュースには関心がある」という新社会人です。平日21:00 ~ 23:00の生放送で、旬のネタを硬派なものから軽いものまで、何でも取り扱っています。
境:「テレビは億劫」…! テレビを愛する人間には衝撃発言です。
鎮目:『AbemaTV』が、「Chromecast」に対応して、いよいよテレビ受信機でも見られるようになっても、中学生の息子からは「いや、スマホで見たい」と非常に冷たい反応でした(笑)。テレビの前に居なければならないというのが、もう面倒なのかもしれません。
山崎:テレビ番組のような共有するコンテンツだと、自分のペースで見られないとか、自分がどんなコンテンツを観ているのかを他人に見られてしまう恥ずかしさがあるのでしょう。自分だけのコンテンツを自分だけのタイミングで見るほうがラクなのかもしれません。「テレビ」から人材が流出する?
境:両社や『Netflix』などの映像メディアが“オリジナルコンテンツをつくる”重要性を認識し始めています。鎮目さんは、テレビとネットを経験されていますが、違いはありますか。
鎮目:『AbemaTV』だと、視聴者との距離感に大きな違いを感じています。視聴者から番組へコメントがリアルタイムで寄せられます。視聴者の「顔」が見えるんですね。その人たちに「絶対、面白いと言わせてやる…! と戦っている感じが、すごく楽しい(笑)。地上波のほうが、圧倒的に視聴者は多いはずなのに、“伝わっている”感覚は今のほうが強いんですよ。「誰に向けて番組をつくるか」という大事なことを見失っていたのかもしれません。
山崎:『C CHANNEL』も、コメント欄の反応を見ながら進化してきました。以前は、自主投稿がメインで、ヘアメイクなど特定領域の再生回数が多かった。「ニーズが高い領域で、もっと高画質で分かりやすい動画をつくれば、数字が伸びるのでは?」と考え、再生回数とコメント欄を参考にして制作体制を強化しました。やはり女性に愛されるメディアになるには、高いクオリティのコンテンツが必要なので、テレビキー局出身メンバーとターゲット世代のF1層の社員が加わった混合チームで制作しています。
鎮目:逆に『AbemaPrime』は、テレビ朝日とサイバーエージェントのメンバーだけでなく、出版、ゲーム、学生など、様々な出自で方向性も違う異業種混合のチームです。僕らの番組が「面白そうだ」と信頼してもらうには、題材の豊かさと切り口の豊富さが必要で、そこには「テレビ」の発想じゃない視点や企画、撮影技術などが必要だと考えています。
境:同じようにスマホで観る動画という点でも『C CHANNEL』は「1分のタテ型」、『AbemaPrime』は、「2時間のヨコ型」という違いも興味深いですね。
山崎:スマホだけでの利用を想定しているので「パケットを無駄に使わせてはならない」が絶対ルールです。ユーザーが知りたいハウツーを一切の無駄なくコンパクトに、でも丁寧に編集して届ける。料理だと細かいレシピはコメント欄に詳しくテキストで紹介して、興味ある人だけが見られるようにする。動画は、他メディアに比べて10秒で伝えられる情報量が圧倒的に多いので、その強みを最大限に生かせるような工夫をしています。
鎮目:僕らの番組はニュースとは言え「娯楽」です。意識しているのは、やっぱり「テレビ」なんですよ。テレビを見なくなった人たちに、もう一度「テレビってこんなに面白いんだ」と思わせたい。なので、コンパクトにつくるどころか、たとえば天気予報コーナーでも、いかに無駄だけど面白いシーンを足すか、ひたむきに考えていますから(笑)。
これからの「映像メディア」「広告」
境:これからは、スマホの小さな画面でどう「広告」を見せていくかが、広告業界の大きな勝負になると思います。『AbemaTV』は従来のテレビ広告に近く、『C CHANNEL』では、雑誌のタイアップ広告のように、コンテンツと並列で流れてくる。山崎さんに質問ですが、広告に対して、「ステマだ」と苦情が入ることはないですか。
山崎:それが意外とないんですよ。おそらく、広告も他のコンテンツと同じように、媒体が訴求したいターゲットに向けて、実用性があるクオリティの高い動画に仕上げているからだと思います。『C CHANNEL』っぽくないコンテンツで「この商品買って」と打ち出すと、その広告には嫌悪感しか持たれませんから。その調整は、クライアントと綿密に打ち合わせます。
境:最後に、これからの「映像メディア」、「広告」に思うことはありますか。
鎮目:『AbemaTV』への期待は内外から強く感じます。これは個人的な目標ですが、「若い世代に憧れられる」存在でありたいです。僕は、1980 ~90年代のテレビやCMに憧れがありました。だから、新しい「テレビ」である『AbemaTV』を通じて、改めて「テレビって面白い!」「CMってカッコいい!」と思ってもらいたいです。
山崎:いままさに「拡張するテレビ」の時代だと思います。メディアも消費者も商品も細分化する中、それらをつなぐクリエイターの力が、これまでになく必要とされています。まだ誰も正解を持たない新しい領域で、チャレンジしやすい環境が整ってきていると感じています。