多様な生活環境で複雑化する意思決定プロセスを俯瞰的に捉える
創刊900号を迎えるにあたり、改めまして読者の皆さま並びに、月刊『宣伝会議』にご協力をいただいております皆さまにはこの場をお借りし、厚く御礼申し上げます。
マーケティングは、「メタ」で動かす。
科学技術と私たちの生活は密接に関わっています。その進化は私たちの生活、そして社会をどう変えるのでしょうか。科学技術の進化が及ぼす、人の生活、社会への影響とは。
科学の進化は、私たちの生活をより便利に快適なものにしてきた。企業が生み出す商品・サービスは科学研究の恩恵を受けたものも多い。しかし、科学そのものは一般の消費者には難解だ。これからさらに科学が進化を遂げた際、いかに科学と生活をつなぐコミュニケーションを実現すれば良いのか。あるいは、科学の進化は私たちの意識にどのような変化を与えるのだろうか。
科学と生活をいかにつなぐか。そのためのコミュニケーションについて研究を重ねる、東京大学大学院 情報学環教授の佐倉統氏は、「科学知」と「生活知」の隔たりを指摘する。
その隔たりが大きく表れたのは、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故後のこと。住民が抱えた、放射性物質の低線量被爆による健康リスクの問題だという。原発事故後、かなり早い段階で、放射性医学の専門家が福島に入り、これまでの研究から導かれた科学的なデータを提示した。しかし、多くの住民はそれだけでは安心を得られなかった。「それはなぜか、と考えると、専門家たちが話した『科学知』と、住民たちが必要としている『生活知』の間に大きな隔たりがあったからではないでしょうか」(佐倉氏)。住民たちが知りたかったのは「100mSv以下の場合は、さほど大きな健康被害はない」といった客観的なデータではなかった。本当に知りたかったのは、「これまで飲んでいた井戸水は飲めるのか」「外に洗濯物を干して大丈夫なのか」といった、日々の『私の生活』内の課題に対する答えだったのだ。
「科学知」とは、普遍的に成り立つ客観的な知識だ。一方 ...