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いま、必要なユーザーエクスペリエンス

「メーカーにとってUXが重要」と言われる3つの理由

「良いものをつくっているのに、売れない」と悩むメーカーは、まだまだ少なくありません。世の中では「UXが重要」と合い言葉のように繰り返されるものの、それが自社にどんなメリットをもたらすのか、いま一つ理解できない方も実は多いのではないでしょうか。製造業にとって、なぜUXが重要なのか。多くの企業とUX視点の製品開発に取り組む山崎和彦教授が解説します。

「使用前後の満足度」が売上を左右する

なぜ、メーカーでもユーザーエクスペリエンスが重要なのか。その問いに対する答えは、大きく分けて3つの理由がある。第一の理由については、私の過去の経験に沿ってお話ししたい。「より良い製品を、できるだけ安く生産して販売する」―これが日本のメーカーが旧来持ち続けてきた、ものづくりの常識だ。かつて私が勤めていたメーカーでも、当然のようにそう信じられていた。

ある時、競合他社製品の売れ行きに疑問を持った。ユーザー調査で比較すると、自社製品の満足度のほうが高い。それなのに、売上は競合他社の製品のほうが好調だったのだ。「製品そのもの」以外に、何か差を生む要因があるのかもしれない。そう考え、ユーザーが製品を知ったときから、購入する、組み立てる、修理する、次の製品を買う……それぞれのタイミングの満足度を調査し、競合他社の製品と比較した。その結果、自社の製品は、「製品そのもの」の満足度は高かったものの、「購入時」の満足度と「購入後」の満足度が競合他社のそれより低いことが分かったのだ。

当時、製品開発担当の立場からすると、「購入時」の満足度の低さは、営業部門やサービス部門、宣伝部門に原因があるのではと思いもした。しかし、よく分析すると、購入時の不満として「製品のことがよくわからない」と答えた人たちは、製品ラインアップの違いを理解できていなかったことがわかった。製品開発部門では、「製品のスペック」と「価格設定」の二軸で製品を企画していた。すると当然、広告宣伝、店頭販促も「スペック」と「価格」を全面に訴求するものになる。しかし、顧客は「スペック」と「価格」で製品を選ぶわけではない。例えばノートPCなら、「より軽量で持ち運びやすいPCはどれか」のように、ユーザーは、自分の使い道に合ったものを選びたいのだ。であれば、そもそも製品開発を「スペック」と「価格」で考えていることが間違っているのではないか―そこで初めて、我々は自社の製品開発が、顧客視点を欠いていることに気づいた。

「購入後」の修理時の満足度も同じだった。一見すると、アフターケアを行うサービス部門が悪いようにも思えるが、よく聞けば、サービス部門に寄せられる声は、そもそもの製品設計に問題があることを示唆していた。ACアダプタや部品が型によって違っては困る、キーボードのレイアウトが異なると困る……といった具合だった。

このように、ユーザーエクスペリエンスとは、製品を使うときの体験だけを指すのではない。使う前、使った後にも、顧客が満足できるのかどうか。それが、ビジネスの成否にかかわる重要なポイントだ。だとすると、製品企画担当は、「使用前後のことは営業部門とサービス部門にお任せ」というわけにはいかない。使用前後の満足度を高めるためには、顧客に販売しやすい製品、また購入後にサービスしやすい製品を考えることが必要とも言えるからだ。この点が、メーカーでもユーザーエクスペリエンスが重要と言える第一の理由である。

ビジネスの中心は「もの」ではなく「サービス」に

図表1 UX視点の価値づくりに必要な考え方「サービス・ドミナント・ロジック」

出典:富士通総研「企業の競争力を高めるICTの新たな活用法とマネジメント
第2回 ~サービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネスを支えるICT~」をもとに編集部で加筆修正。

第二の理由は …

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