オウンドメディアの秀逸事例
ここでは、メディアを運営し企画の考案も行っている藁品氏、岡田氏の両名が参考にしているという5つのメディアを紹介します。
宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本
キリンビールの「開発ハンドブック」。同社の商品開発の歴史や考え方、ノウハウを一冊にまとめており、コンセプトの定義も明記されている。
「コンセプトとは何か」――キリンビールには、自社の商品開発の歴史や考え方、ノウハウを一冊にまとめた「開発ハンドブック」があり、ここに明確な定義が記されています。それは「お客さま視点で見た商品の魅力を、短い文章で表したもの」。商品は世に出した瞬間から、お客さまに育てられていくものです。だからこそ、お客さま視点でつくった「コンセプト」が核となり、商品の中味、パッケージデザイン、広告クリエイティブ、営業施策といった、商品にまつわるすべての要素が決定していきます。
では具体的に、どのようにコンセプト開発を進めていけばよいのでしょうか。考え方の手がかりは、次の4つに集約されます。
社会や生活者を取り巻く「トレンド」に注目する方法です。「淡麗グリーンラベル」を例に挙げてみましょう。同商品を発売した2002年当時、世の中には機能性飲料が多く出回っていました。ビール・発泡酒市場にもその波は押し寄せ、「糖質オフ」「プリン体カット」などの健康機能を訴求する酒類が多く販売されました。しかし一方で、機能をダイレクトに謳うことに対して、お客さまの中に「たしかに健康は気になるけれど、『ダイエット』『カロリーオフ』と前面に出されるのはちょっと…」と違和感が生まれ始めていたのも事実。そこでグリーンラベルは、糖質オフという特徴を、「身体に負担をかけないこと、心地よいこと」と読み替えました。「ココロもカラダも心地よい発泡酒」。世の気分にうまくフィットしたコンセプトが、ヒットにつながったと考えています。
お客さま(ターゲット)はどんな人で、どんな暮らしをしていて、どんな特徴的な行動があるのか、に注目する方法です。ここでは、「のどごし〈生〉」を例に挙げます。同商品が発売したのは2005年。それまでの、お父さんの乾杯シーンといえば「飲み屋のジョッキで生ビール」というイメージでしたが、景気の悪化を背景に、家族と過ごす時間をより大事にする男性が増える兆しが見られました。これからの時代、自宅で飲むビールこそが、お父さんにとっての「ビール」の主流になっていくのではと考えました。そうして生まれたのが、「家族の笑顔に囲まれて、ゴクゴク飲みたい生。」というコンセプトです。
商品の中身が持つ機能・価値を起点に、「これは、お客さまから見るとどんな意味・価値を持つだろうか?」と考えるアプローチです。「午後の紅茶 おいしい無糖」を例に説明します。お客さまの紅茶に対するイメージとして一般的なのは「香りが良くて、優雅な時間を楽しむことができる」というもの。同商品は、文字通り「無糖」の紅茶なのですが、「無糖」ということだけを強調してしまうと、お客さまには「本来あったもの(砂糖)が欠けてしまった」という、ややネガティブな印象を与えかねません。そこで、商品名にも「おいしい」とつけ、香りの良さやおいしさを前面に出すことにしました。この商品は、現在は緑茶飲料が高いシェアを誇っている「食事と一緒に飲むお茶」のカテゴリーで戦っていく商品にしたいとも考えていました。だとすれば、大事なのは「無糖」ということではなく、「おいしい」ということだったのです。
その新商品が、すでに競合商品が多数存在する市場に参入していく後発商品だった場合。そこでどう差別化していくか、「お客さまから見て、どんな存在にするか」を考える方法もあります。高付加価値ビール「グランドキリン」を例にとると、キリンは高付加価値ビールの商品開発においては他社の後手に回っていました。後発で商品を出していくならば、高い付加価値を提案しなければならない。そこでコンセプトを「つくり手の顔が見えるクラフトビール」とし、クラフトマンシップを感じられるブランドとして提案することにしました。値段の高い安いではなく、ビール本来の楽しさを徹底的に追求した商品。そのコンセプトが、他にない独自性になりました。
コンセプトを考えるにあたっては、「キリンビールがやりたいこと」と「お客さまが求めていること」をすり合わせることも必要かと思います。最も優先すべきは「お客さまが求めていること」で、それに対してキリンだったらどうアプローチできるか?を考えます。「キリンビールがやりたいこと」は、すなわち「キリンビールが得意としていること」と言い換えることができる。社内のリソースを駆使して、いかにお客さまの望みを叶えるか、そこに企業の真価が発揮されると思います。
「お客さまが求めていること」と言っても、すでに顕在化している、世の中にありふれたニーズに応えるのでは、お客さまは驚いてくれません。顕在化していないニーズを探り当てる必要があります。有効な手段のひとつに、エスノグラフィがあります。お客さまがどんなふうに買ってくれているのか、楽しんでくれているかを、その現場に行って、見て、知ること。そこから得られる情報はとても大きいと言えます。
例えば「のどごし〈生〉」なら、子どもがいるお父さんの日常を観察します。彼らは …