意欲的な若手が集う
スタートアップ系イベントと言われるビジネスイベントの勢いが強い。日本で始まったものから、海外で既に実績のあるものまで、数多く開催され、Webメディアを中心に話題に上がることも増えている。
コンテンツはスピーチ、パネルディスカッション、ブース出展と従来のビジネスイベントと概ね同じものではあるが、イベントのアプローチが展示会などのビジネスイベントと異なる。展示会などは出展企業の目的を達成するために、来場者を集めていく側面が強いが、スタートアップ系イベントは、来場者のためにプログラムを構成していく側面が強い。これから起業を目指す人や、起業後さらなる成長を目指す人たちが主な来場者であり、来場者自身の個性や勢いがイベントの姿に反映されている。純粋にイベントとしての面白みも格段に強くなっていることから、扱われるビジネステーマに必ずしも関わっていなくても強い刺激を受けることができる。これもスタートアップの生き方を肯定的に、発表されるコンテンツは価値あるものとして見せる工夫がされているからだと感じる。
もはやフェス
昨年、日本に初上陸し、今年も5月13日、14日に開催された「Slush Asia」は代表的なスタートアップイベントの一つ。この「Slush」は2008年にフィンランドで始まり、現在は毎年100か国以上から1万5000人が集まるほどの規模に成長をしている。主催者自身が「イベントを行うことでビジネスのムーブメントを生み出していく」というように、起業家、投資家、企業、ジャーナリストがつながるコミュニティを作ることが目的となっており、それを実現するために魅力的な見せ方にこだわっている。
会場に入ればEDMがガンガン流れ、レーザーや光の演出が至る所でみられるなど、会場の雰囲気はミュージックフェスそのもの。ブース出展しているプロダクツもIT系のものが多く、これらの雰囲気の中で展示されると相乗効果が発揮される。重要なコンテンツであるスピーチやパネルディスカッションの登壇者はいずれも起業家としても成功をおさめた人が多いものの、カジュアルな距離感で話が進められる。次の成功を目指すスタートアップが行うピッチステージは熱く、華やかだ。
同時期に開催された「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2016」もベンチャー企業や起業を志すイノベーターを支援する新しいラジオプロジェクトである「INNOVATION WORLD」から発生したイベントであり、テクノロジーと音楽の祭典は、ラジオ番組らしいより身近に楽しめるビジネスイベントとして盛り上がった。
この二つのイベントのように、ビジネスそのものの魅力が高いことはもちろんだが、「スタートアップはスゴイ」という体感を提供していくことがポイントになるのであろう。スタートアップのムーブメントを生み出していく以上、重要になるのは常に将来のスタートアップ、成功した起業家を輩出していくことである。その意味においては派手な演出が話題になりやすいが、来場者にとっては同じくスタートアップを目指す人が大勢いて、その熱量が高いこと、そこから成功していくことのできたロールモデルが目の前にいることの価値は高い。
変化のスピードに対応できる
これらのイベントは参加者のことを考えて構成した結果、ブース出展をする企業にとっても良好な影響を与えている。参加者は良いものへの投資を行うことが習慣になっていて、安くはない参加費を払っていることから、能動的に参加をしている。こうした参加者からの柔軟な発想からのフィードバックを得ることもできる。彼らには不要なしがらみもほとんどない状態なので、良質なコンテンツやプロダクトは貪欲に取り込んでいく気質がある。トライ&エラーの回転が速いため、ビジネス創出にもつながっていくことも多いはずである。
イベントは経済活動の一環であるとしているが、このようなイベントこそが、ますます変化が速まっていく現代社会において、そのスピードを乗りこなすイベントになっていくのだと思う。スタートアップというとテクノロジー系のものが多いが、社会活動としてのNPO/NGOなどが参加するピッチイベントもできれば社会進歩にさらに貢献していくことができる。
文/日本イベント産業振興協会 主任研究員 越川延明