アクセンチュアがアイ・エム・ジェイ(IMJ)の株式の過半取得に合意したとのニュースはマーケティング・広告関係者の注目を集めた。デジタルマーケティング領域の市場環境変化を象徴する今回の合意がもたらすものとは。両社のトップに合意に踏み切った理由や今後のビジョンについて聞いた。
(左から)アクセンチュア インタラクティブ統括 マネジング・ディレクター 黒川順一郎氏、
アクセンチュア 代表取締役社長江川昌史氏、
アイ・エム・ジェイ 代表取締役兼CEO 竹内真二氏、
アイ・エム・ジェイ 取締役COO 加藤圭介氏
互いのDNAに共感 強み生かした協業を目指す
江川▶ 企業や組織の経営を考える上で、デジタルはもはや避けて通ることができません。デジタルを取り込んだ戦略はむしろ主流になっていくでしょう。
アクセンチュアは、戦略コンサルティングや情報システム、アウトソーシングなど、顧客の変革支援に視点を置いたサービスをグローバルで展開していますが、デジタル領域へのニーズは日増しに高まっています。デジタルマーケティングの専門組織「アクセンチュア インタラクティブ」の機能強化は、その流れを受け全世界で進めてきたものです。日本市場では今回の合意を皮切りに、IMJと一緒にその展開を加速させていきたいと思っています。
竹内▶ IMJはWeb制作で事業をスタートし、運用やデータ分析などに徐々に領域を広げてきました。その先には、「マーケティングサービスプロバイダー」として、デジタルマーケティングにおけるお客さまのあらゆる課題に対応できる企業になるというビジョンを描いてきました。今回の合意は、その延長線上にあります。我々にないスキルやグローバル視点を持つ、この上ないパートナーを得ることにつながると考えています。
黒川▶ これまでもデジタルマーケティングのパートナーとして、個々の案件で協業してきました。我々は、顧客起点の戦略立案からオペレーションまでのすべてを“end toend”で支援していくことを掲げていますが、IMJも同じスタンスに立っていることが一緒に仕事をして分かりました。デジタルマーケティングの支援を通じて、最終的には消費者の生活を豊かにしていく、という考え方も同様です。言わば、互いの“DNA”に共感できたことも今回の合意を後押ししたと考えています。さらに、この分野におけるIMJのプレゼンスの高さや幅広い実績に魅力を感じて、こちらから話を持ち掛けました。
加藤▶ 我々は主にマーケティング部門の課題解決に取り組んできましたが、デジタルを活用し、顧客体験価値を変革していくためには、経営陣含め会社全体を動かしていかなければならないと訴えてきました。アクセンチュアは、企業の経営層と多くのつながりを持っているので、我々の目指す方向性を加速させていくことができると期待しています。経営視点やデジタルを活用してビジネスそのものを変革していくというアプローチについては、IMJがアクセンチュアから学ぶことは多いでしょう。
戦略立案から実行まで“end to end”で対応可能に
江川▶ 今回、IMJ株式の過半取得について合意したことを発表しましたが、具体的な協業の仕方についてはまさに検討しているところです。ただ、両社が目指すことは共有しています。成長に向けたデジタル戦略立案から、やり遂げるところまで、両社が掲げてきた“end to end”で顧客の変革を支援していくこと。そして、国内外で培った先端の知見を融合していくこと。現時点で国内では、我々の共同体こそがそれができるところになると考えています。このビジネスは将来にわたって伸びていくでしょう。
竹内▶ お客さまから具体的な依頼を受けてから「実行」の部分を受け持つだけでなく、経営課題やマーケティング全般の課題をもとにソリューションを提供するスタイルにシフトすることで、当社にとっての可能性は何倍にもふくらむと考えています。お客さまにもこれまで以上にメリットを提供できるでしょう。
江川▶ コンサルティング会社とデジタルエージェンシーの協業は世界各地で進んでいます。アクセンチュアも、グローバル戦略の一環として欧米やアジアで体制強化を進めています。デジタルが経営課題の一つとして存在感を示す中で、この流れは必然と思いますが、そのことが既存の広告ビジネスを侵食するとは全く考えていません。
黒川▶ コンサルティング会社と広告会社との競争が激化するとの指摘がクローズアップされていますが、そもそもビジネスのレイヤーが異なると考えています。我々は企業や組織の変革のお手伝いの一環としてデジタルマーケティングを位置づけています。広告会社が得意とするマーケティング支援の領域とは共存し、協業する関係であると考えています。
竹内▶ 我々も、既存市場を取っていこうという考えはありません。今回の合意によって、お客さまにはより多様な選択肢を提供できるようになると考えています。
グローバルで注目される先行事例を発信したい
江川▶ 企業や組織のデジタルシフトの取り組みは米国で先行しましたが、日本も急速な追い上げを見せ、今やほぼ同じレベルにあると言えます。現場の取り組みについて日本が後れを取っているということはないでしょう。
もっとも、経営層のデジタルの浸透度合いについては日米ではまだ差があると言わざるを得ません。私の感覚では、米国の経営者は8割くらいがデジタルについて真剣に考えていますが、日本は2割ほどではないでしょうか。その2割に当たる層から当社に声をかけていただくので足元のビジネスは成長を続けているものの、この差には危機感を抱いています。経営層にデジタルシフトの重要性を十分に認識してもらうべく、我々もさらに努力していきますし、今回の合意によって強化していくチャンスだと考えています。
加藤▶ デジタルシフトに関する相談を受けることは私たちもよくあります。そこで聞くのは「戦略だけでも個別施策の実行だけでも進まない」というもの。戦略から実行まで一貫して支援できるようになることが大きな意味を持つでしょう。
竹内▶ 今回の合意によるメリットとして実感していることに、社内にポジティブな影響を与えていることがあります。これから両社でやろうとしていることは、おそらく日本のデジタルマーケティングの最先端を行くことになるでしょう。しかも、アクセンチュアの皆さんという「先生」が身近にいるわけです。スタッフ個人の成長にとってもこんなに素晴らしい環境はありません。
黒川▶ アクセンチュア側もまったく同じです。我々にとってはIMJの皆さんが「先生」です。個々のプロジェクトにおいても、互いのスタッフが刺激し合い、並走しながら進めることでより大きな成果を得られると期待しています。
江川▶ 日本で最先端であることはもちろん、グローバルなデジタルマーケティングの分野での先駆的な事例を日本から多く発信していきたいですね。デジタルについて真剣に考える経営者は日本で2割と言いましたが、こうした取り組みの結果、2~3年後に5割ほどまで高めることができれば素晴らしいことだと考えています。
編集協力:アイ・エム・ジェイ