オウンドメディアの秀逸事例
ここでは、メディアを運営し企画の考案も行っている藁品氏、岡田氏の両名が参考にしているという5つのメディアを紹介します。
宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本
会社への行き帰りの電車ではSNSやニュースサイトを読みふけり、仕事は常に忙しく、早く帰って家事や育児もしなければならない。多くの人がそうした暮らしを送るなかに、インナー向け広報媒体は投下される。
取り上げる話題は、ビジョンやバリュー、経営戦略や他部署の出来事など当事者意識が湧きにくいものばかり。当然そこには、つくり手にとって厳しい現実が待っている。頑張ってつくったのに読んでもらえない。まず、そこが最大の関門と言えるだろう。
ましてや、インナー向け広報媒体は、その名の通り身内が身内に向けてつくる媒体である。制作段階で、社員や部署間の利害衝突に苛まれることもしばしば。一筋縄ではいかない媒体である。しかし、ターゲットが限られている分、苦労が多いのと同時に、工夫次第で想像以上に効果的で面白くできる。
とある企業で行われた戦略共有会議の仕事をサポートした際、ひとつの学びがあった。都内の大型ホールに、数千人を集めてトップや役員を中心に経営方針を発表する社内イベントだ。
その日に合わせて社内報が発行され、入り口で手配りされていた。コンテンツは、当日の演目と完全に連動する内容。登壇者の紹介から、各事業のこれまでの軌跡が分かりやすく紹介されている。さらに事前に社内Webを使って、役員たちに何を聞きたいか演題を募集していた。それをランキング形式で示し、順位ごとに担当役員が登壇してプレゼンテーションしていく趣向だ。
また、幕間のスクリーンには事前に募集した各部署の宣伝動画が何本も放映され、所属スタッフ自らが制作したオリジナルビデオに、会場はどよめいたり、笑いが起きたりしていた。
普通、数千人規模の方針発表会というと、静まり返る質疑応答、目立たないよう眠り続ける社員、というのが定番の風景だが、こちらの企業は違った。社員たちの反応はとても鮮やかで、ボルテージは常に高いままであった。まさに、ここにヒントがある。
社風もあれば、経営状況によっても違うので、当然このやり方がどの企業にも使えるとは思わない。しかし、イベントに向けて、さまざまな仕掛けを上手く連鎖するよう計画すれば、参画意識も湧くし、強烈に人を惹きつけるのだ。
インナー向けのコミュニケーションでは、いかに社員に当事者意識を植え付け、どれだけ巻き込めるかが鍵である。個別に媒体を放つのではなく、それぞれを連鎖させる。従来の「ものづくり」の発想に加えて、これからの担当者にとって大切なのは「しくみづくり」の発想だと気づかされた。
仕組みをつくるのは簡単ではない。コミュニケーションのタッチポイントに何があるかを把握しないといけないし、各部の活動カレンダーが頭に入っていないと良いタイミングでの連鎖は起こせないだろう。そして何より、社員が、実際どのような暮らしを送り、どんな情報を欲しているかをしっかりと見極め、行動パターンや志向に合わせて情報を発信していく必要がある。
インナー向け広報は、空気の読みようで響き方が大きく変わってくる。社内ベンチャーを立ち上げるべく、新規事業を募集した次の日に早期退職者募集などすれば、もはや炎上沙汰である(実際、そんなことがありそうで怖いが……)。現場の温度にマッチさせるにせよ、あえて乱すにせよ、雰囲気を鋭く読み取る必要がある。
また、もう1つ重要なのは、本音が語られていることである。
外に話すわけではないのだから、新聞や雑誌では分からない社内ならではの情報が欲しいところだ。しかし実際はいろいろな部門や上司に目配りしすぎて表現が遠慮がちになったり、時期尚早とネタを劣化させたり、綺麗ごとばかりを並べてしまう。おまけに最近は情報セキュリティやコンプライアンスに対する厳しい視線もあり、とかく品行方正な表現が多くなりがちだ。
よそ行きの情報か否か、本音か建前かは、社員たちは即座に見破る。結果、毒にも薬にもならない情報ばかりと判断され、誰からも興味を持たれなくなってしまう。まさにインナー向け媒体が陥りがちな罠である。
会社の事業環境や心的状況をしっかり汲み取り、多少冒険しながらでも、社員が本当に知りたい情報を入手して伝えることが重要だ。
インナー向け広報の場合、媒体選びも重要な仕事になる。
例えば、工場で働く人には紙媒体、営業職ならデバイスがあるのでWebといった具合に、ターゲットに合わせて、どの器に情報を載せるのが効果的かを考える。紙、Web、SNS、動画、イベント、それぞれの特性を考慮した上で、ベストな組み合わせを選んでいく。
媒体選びの時にも“しくみづくり”の発想を忘れてはいけない。紙の社内報をリニューアルする場合は、単にデザインを一新したり、Web化するのではなく …