テクノロジーが進化し、広告のターゲティング精度は高まっている。しかしながらデータを読み、ターゲットを設定し、マーケティングシナリオを設計する。マーケターとしての基礎スキルがなければ、どんな手法も活用はしきれません。ニーズが多様化した時代のマーケターのあり方とは。
明治 営業企画本部 営業企画部長 中島 聡氏
慶應義塾大学商学部卒業後、明治乳業(現・明治)入社。商品・流通マーケティングに加えて統合マーケティング戦略策定に携わる。著書に『シニアの本音が見えてくるDATA BOOK』『顧客の心をつかむニーズ多様化時代のマーケティング戦略』がある。
多様化しても変わらない根本的な欲求
日本の市場においてライフコースや価値観の多様性が生まれているのは、それだけ日本社会が豊かになっているということ。確かに、ニーズが多様化する中で企業としてのマーケティング戦略は難しい局面も増えている。
しかしながら時代が変わっても、人間の本質的な欲求は変わらないものだ。いかにこの「本質的な欲求」を発見し、中でも自社が提供できる機能や価値で充足できるニーズに辿り着けるかがマーケターにとって重要なテーマとなる。
フィリップ・コトラー教授は、マーケティングは1.0から3.0、さらに4.0へと進化を遂げるべきと説いている。マーケティング4.0では、マズローの欲求段階説の最上位に当たる「自己実現」の欲求を叶えるものと言うが、「自己実現」の欲求だけが単体で独立するものではない。消費者ニーズを考える際、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求をベースの部分で常に満たす必要がある。マーケティングの場合には1.0から4.0へと変化をしても、そこにパラダイムシフトが起きているわけではないということだ。
ターゲットのセグメンテーションや高度な欲求への対応は重要であるが、マーケターは常に人が普遍的に求める欲求に目を向け続けるべきと言える。その上で、セグメンテーションの戦略を考えなければ、マーケティング戦略は決して成功はしないだろう。
淘汰されるブランド 統合型の戦略が必須に
人の本質的な欲求を充足させる、自社が提供できる価値を考えると、ブランド戦略のあり方にも議論が及ぶ。情報環境が激変し、マス広告を使って実現してきた大量生産・大量消費型のモデルが立ち行かなくなってきた時代、ブランドの考え方も変化をしている。
かつては大量に商品が市場に出回り、売れることで、結果的にブランドとなっていく商品もあった。しかし現代の環境では経営者の想い、企業が持っている社会に貢献できる技術、独自性あるコンセプトなどを軸にしたブランドが主流になっていくだろう。
加えて流通環境を考えると、今後ブランドの淘汰は必至の状況だ。人口が減少していく日本においては、確実に市場が縮小し、それに伴い流通業界の淘汰・再編は今後、激しさを増していく。加えて現在も買い物難民が全国に約700万人はいると言われるが ...