企業を取り巻く環境に応じて、ブランディングにおける課題も変化している。デジタル化やグローバル化といった潮流を踏まえ、企業はどのように対応するべきか。2015年から新たなコーポレートスローガンを掲げてブランディングに取り組む、味の素に聞いた。
味の素 広告部 GEP(Group Executive Professional)クリエイティブ統括部長 名久井貴詞 氏
1985年武蔵野美術大学卒業後、味の素に入社、広告部配属。1997年~2002年メルシャンに出向。2003年味の素広告部復職。2008年から食品事業本部アセアン本部バンコク駐在。2013年6月末帰国。その後、広告部制作企画グループ長を経て、2015年7月より現職。
クリエイティブではシズルを強調 企業として不変のスタンスを表現
世界的にはデジタル化やグローバル化、国内市場では成熟化・人口減少など、食品市場を取り巻く環境が激変する中で、マーケティングのあり方にも変化が求められている。創業107年という老舗企業である味の素も、そうした変化への対応を意識しているが、広告部GEP(Gro up Executive Professional)クリエイティブ統括部長の名久井貴詞氏は「正直なところ、デジタル化が進む現代におけるブランディングについては、まだ模索中の段階」と打ち明ける。
現在、国内の若い世代では「料理離れ」が進んでおり、調味料という同社の主力商材のターゲットは40代から高齢者層に推移している。そうした課題に直面しつつ、Webサイトには商品ブランドごとのページを設けて情報発信をしている。だが、高齢者にリーチする手段としては、やはりマスメディアが強いと名久井氏は言う。「いくらテレビが見られなくなったと言われても、当社の商品の場合は、まだまだテレビや雑誌、新聞といった、マスメディアのリーチ力は圧倒的です」。
しかし、多様性が重視される現代では、マスメディアを通じた一方向的かつ一律的な発信で、伝えたいメッセージが伝わるとは限らない。「伝わる」「伝わらない」以前に、同じ表現でも捉えられ方が、多様かつ複雑になってきている。「当社でも以前に、CMがきっかけとなって、ネット上で炎上してしまった苦い経験があります。価値観が多様化している世の中を踏まえ、企業が発信する情報やメッセージには、これまで以上に綿密な設計が必要です」。
そんな中でも、同社が最も重視しているのは、“おいしさナンバーワン”という企業としてのスタンスだ。「商品のみならず広告においても、世界一のおいしさを提供したいと考えています。それは、テレビCMであっても、オンラインの動画であっても、1枚の写真であっても同様です」。同社のCMをはじめとするクリエイティブでは、商品の細かいスペックではなく、何よりも“シズル”を強調している。同時に …