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100万社のマーケティング』創刊1周年スピンアウト企画

経営者には「デザインをうまく使う意識」、デザイナーには「経営リテラシー」が必要

企業の未来を形作る構想を言葉やビジュアルで表現し、実現に向けて力を尽くす。そんなクリエイターとパートナーシップを結んで大きな変革に挑戦し、着実に成功を積み重ねている経営者がいます。「伸びている企業の経営者のそばには、優れたクリエイターがいる」――経営者×クリエイターの二人三脚で他にない価値を生み出そうとしている事例を紹介します。

右) オリエンタルカーペット 代表取締役社長 渡辺博明(わたなべ・ひろあき)
青山学院大学卒業後、山形テレビ入社。1991年オリエンタルカーペット入社。企画部長、総務部長、常務取締役を経て、2000年に専務取締役就任。2006年に代表取締役社長に就任(5代目)。オリエンタルカーペットは、2006年に経済産業省「明日の日本を支える元気なモノ作り中小企業300社」受賞、2009年に経済産業省「第3回ものづくり日本大賞・経済産業大臣賞」受賞。

左)エイトブランディングデザイン 代表/ブランディングデザイナー  西澤明洋(にしざわ・あきひろ)
「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana's green tea」、料理道具店「釜浅商店」、LPガス「カナエル」、タオルプロジェクト「ℓℓℓ works」など。グッドデザイン賞をはじめ国内外の受賞多数。著書に『新・パーソナルブランディング』『ブランドのはじめかた』、『ブランドのそだてかた』など。

──お二人が出会ったきっかけは?

「古典ライン」の主力デザイン。桜花柄の凹凸を出すためのカーヴィングも全て手作業。

西澤▶ 日本の優れた伝統文化や技術を世界に発信しているキュレーターのような方がいらっしゃるのですが、その方が「オリエンタルカーペットというメーカーが作っている絨毯ブランド『山形緞通』は素晴らしい。海外に紹介したいが、今のままでは難しい。どうしたらいいか」と、相談に来られたんです。それなら直接、社長と話をしてみようということになりました。

渡辺▶ 山形緞通は日本で唯一、紡績(糸づくり)から染色、織り、仕上げの艶出し加工まで、すべて職人の手による一貫管理体制の下で絨毯を作っています。これまでは、公共施設やホテルなど大規模建築物の内装材が事業の主軸でした。実は、新歌舞伎座のメインロビーや、東京都庁の絨毯も当社が製造・施工を手掛けたのです。しかし、海外から安価な絨毯が流入してきたり、リーマンショック後の建設不況が続く中、将来を見据えたとき、「このままでは、我々のアイデンティティである『山形でのものづくり』を続けられなくなるのではないか」という危機感を持っていました。山形での絨毯作りを続けていくために、今後は一般家庭で日常的に使ってもらえるようなホームユースラインにも力を入れたい。しかし、どうすればいいのか…。西澤さんと出会ったのは、そんなふうに解決の糸口を探してもがいているときでした。

西澤▶ 既存のホームユースライン「古典」の実物を見たら、世界でも最高峰の技術で作られていることは明らかでした。また「デザイナーライン」として、フェラーリをデザインした工業デザイナーの奥山清行さんや、建築家の隈研吾さんとコラボレーションした商品を作っていることにも驚きました。デザインは桜花や紅葉といった古典的なものから、「苔」「海」のようなチャレンジングなものまで様々ですが、どれも手織りや手刺し、カーヴィングなど、素晴らしい技術の粋を集めた商品ばかり。この技術を、ブランドとして残していくべきだと強く思いました。そのためには、山形緞通は、伝統工芸のように“ありがたがられる”存在になるのではなく、普段使いしてもらう必要がある。まずは商品構成から見直す必要があるなと思いました。

「デザイナーライン」。隈研吾氏による「KOKE」と、奥山清行氏による「UMI」。


山形緞通の商品タグ。糸の原料であるブラックシープがモチーフ。紡績、染色、織り、加工と、自社での一貫管理にこだわるブランドの姿勢を表現している。

東京⇔山形間を隔週で行き来

西澤▶ 今回の例に限らず、ブランディングデザインは、最初にコンセプトを決め、それを軸にブランド戦略を練っていきます。今回は、商品ありきでコミュニケーションの方法を考えるのではなく、商品戦略から考え直す必要がありましたので、その骨子が固まるまでは、2週間に1度、東京と山形を行き来しました。コミュニケーションを重ねる中で、お互いの感覚を理解し合ったり、目的意識を刷り合わせていったんです。僕らはオリエンタルカーペットの“デザイン部”として企画開発を行う。そういう関係性をつくりたいと考えました。

渡辺▶ 外部のデザイナーが入るとなると、最初は皆どうしても身構えてしまう。ですから、今回のプロジェクトチームには、職人や製造の責任者もメンバーに入れてもらいました。

西澤▶ 最初のほうの打ち合わせは、ワークショップ形式でしたね。全員で山形緞通の良いところ・悪いところ探しをして、今後どうなっていきたいのかを一緒に考えていきました。3~4カ月ディスカッションを経て議論の内容が整理できたら、いよいよ僕らからの提案の段階です。提案内容は、既存の「古典ライン」「デザイナーライン」の間に、「コンテンポラリーライン」という新ラインを作ること。山形緞通の技術力はそのままに、現代的な生活風景の中にも溶け込むようなデザインと、リーズナブルな価格帯を重視しました。既存ラインとの統一感を持たせるために「自然」をテーマにしていて、紡績・染色も自社で手掛けているという強みを最大限打ち出すために、グラデーションを使った「空景」を描き出しています。

「コンテンポラリーライン」の「しもつき」と「あけぼの」。同ラインは2畳サイズで30万円台と、手が届きやすいプライスゾーンも意識している。

渡辺▶ 色在庫は2万色近く常備していて、例えば同じ「青」でも15色の幅があります。「空景」シリーズの一つ「しもつき」は、青系のグラデーションを使った商品ですが、新たに開発した6色の青を41の組み合わせで織りました。こんな手間のかかることをするのは、国内外を見渡しても当社くらいですね(笑)。それが山形緞通の強みだとも思っています。

西澤▶ 僕らから理想的な商品構成を提案した上で、製造/営業と様々な視点から検証してもらい、商品戦略を固めていきました。

渡辺▶ 最高水準の技術を用いながらも、手に取りやすいプライスゾーンを維持するために、可能な範囲で製造工程を減らしたり…。一緒になって細かいチューニングを重ねました。

西澤▶ 商品戦略が固まったら、次にブランドロゴや各種コミュニケーションツールのデザインに入っていきました。ブランド紹介ムービーを制作し、商品カタログもリニューアル。Webサイトもリニューアルオープンに向けて準備中です。

渡辺▶ 山形緞通のブランド価値の根幹には、山形の豊かな自然や熟練した職人の手仕事がある。そうした世界観を、動画でたくさんの人に知ってもらえればと期待しています。

西澤▶ ここからは情報発信を強化していきましょう、とお話しています。ブランドの“伝言力”を加速して、早く売上につなげていきたいですね。「山形でのものづくり」を続けていくためには、オリエンタルカーペットという企業自体が元気であること、つまり売上が上がることが必須条件ですから。また、情報発信を積極的に行っていくことは、リクルーティングにも良い効果をもたらすと思います。

渡辺▶ 事業が成長して売上が上がれば、新しい人材を採用できる。するとまた新しいものを作ろうという機運が社内に生まれる。そういうふうに一つひとつ順番に進めていくのが、私たちのような中小企業のあり方だと思います。

デザイナーに求められる経営マインド

──渡辺社長にとって西澤さんはどういう存在ですか?

渡辺▶ 西澤さんにブランディングをお願いすることは、当社にとって大きな決断でした。自分の決断が間違っていなかったと確信したのは、春に出展したインターナショナル・ギフト・ショーです。同イベントへの出展は初めてのことでしたが、職人の実演もなしに、絨毯だけを架台にかけて展示するというのは、まさに“西澤ワールド”。我々の感覚にはない展示方法でした。驚いたことに、人気雑貨ブランドのバイヤーが見に来てくれたんです。適切な形で表現すれば、若い人にもちゃんと見てもらえて、こだわりが伝わるのだということを、西澤さんに教えていただきました。

──西澤さんにとって渡辺社長はどういう存在ですか?

西澤▶ とにかく熱い人です。渡辺社長は今回のブランディングを「山形でのものづくりを賭けたチャレンジ」だとおっしゃっていて、本気で会社を立て直したいと考えていた。ものづくりを愛しているし、デザインへの思いも強い。そういうことは僕らに肌感覚で伝わってきます。新しい価値を、二人三脚で生み出していくパートナーとして、社内へ迎え入れていただいているという実感もありました。

──最後に西澤さんに伺います。企業の未来にクリエイティブが貢献できることとは?

西澤▶ デザインは、その企業の良いところ、強みを具現化する・強化するもの。経営者には「デザインをうまく使うことで、会社を良くしよう」という意識が必要だと思いますし、逆にデザイナーにも経営のリテラシーが求められます。デザインは、単に表現の美しさ、センスの良さを追求すればいいというものではなくなっていると思います。デザイナーは、デザインの枠組みを考え直さなければいけない時代にきているのかもしれません。

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