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電通デザイントーク 中継シリーズ(PR)

「社会のために」はブームじゃないぜ! 「社会」と「仕事」と「自分」の関係の結びかた

箭内道彦×並河進

「社会のために」という視点を持って、広告に携わりたいと考える若い人は増えている。しかし、その想いを仕事にすることはまだまだ難しいのが現状だ。そんな中、「社会のために」を仕事にしている2人が、その出発点や、自分と仕事と社会の関係を語り合った。

“ソーシャルのスイッチ”が入った瞬間は?

並河▶ 今日は、震災から4年が経ち、世の中の空気もだんだん変わってきたこのタイミングで、「社会のために」を仕事にすることについて箭内さんと改めてお話しできればと思っています。

箭内▶ 今は当たり前のように「社会貢献」と言われるようになったけれど、実は僕自身はなかなかそれが自分ごとにならなかったんです。それが変わったのは、確か2010年くらいに「罪滅ぼしと恩返し」という話を講演でした時だと思います。これまで自分のことだけを考えて生きてきたけれど、40歳を過ぎ、少しは人の役に立って死なないと後味が悪いと思うようになった。それが「罪滅ぼし」。それから、自分を育てた人や故郷に何か返す責任があるというのが「恩返し」。そうやって徐々に変わってきた感じです。

並河▶ 「ソーシャルグッド」や「ソーシャルデザイン」という言葉が出てきた時は、どう思われました?

箭内▶ 正直、ピンとこない感じでしたね。ただ、博報堂に入る時、僕は重役面接で「広告の力で人を幸せにしたい」と言っていて、そういう気持ちは自分の中にもあったんだと思います。

並河▶ いま、電通に限らずですが、若い子でそういう気持ちを持って入社する人はたくさんいるんです。でもいざ会社に入るとなかなかチャンスがなかったり、許されなかったり。僕自身もそうでした。まだ仕事もなかった若手の頃は、夜な夜な一人で企画書を書いていました。そのうちの一つが、食の構造を変える「Food is 風土」プロジェクト。これからの広告は、世の中の意識や構造をよい方向に変えていく旗印になるんだ、という思いを込めて作ったものです。

箭内▶ コピーはあまりうまくないね(笑)。でも、憎めないよさがあるね。

並河▶ (笑)。この企画書、周りの先輩は相手にしてくれなかったけど、白土謙二さんだけが「君は今まで電通に使われる人間だったかもしれないけど、これからは電通を使う人間になるんだ」と言ってくれました。その一言で、頑張って来られたんですよね。

箭内▶ 黙っていたら誰も自分を見つけてくれないから、自分で手を挙げていかないと次の扉は絶対開かないのは確かです。それで、並河さんはなぜ「社会」の方に行こうと思ったの?

並河▶ 当時は電通社内を見回しても、NPOやボランティアの領域の仕事は誰もやっていなくて、この領域が空いている!と思ったんです。それで同じく空いていた「アイドル」と「ボランティア」を組み合わせた「ボラドル」をプロデュースする企画など、色々とやってきましたが、5年くらいは全く芽が出ませんでした(笑)。ようやく形になり始めたのは、クライアントと一緒に企画をするようになってからです。それが2008年に始めた王子ネピアの「nepia千のトイレプロジェクト」です。王子ネピアの宣伝トップの方が一緒に飲んでいた時に「便所紙屋にももっとできることがある!」とおっしゃって。そこから東ティモールのトイレづくりを応援するプロジェクトを立ち上げ、今でも続いています。それ以降、色々なプロジェクトをクライアントと立ち上げるようになっていった中で、2011年に震災が起きた。当時の活動についてもお聞きしたいのですが、箭内さんは、震災前から故郷福島の応援をされていましたよね?

社会のために活動することが自然と仕事になっていく

箭内▶ 元々、僕は福島が嫌いだったんですよ。「福島には帰らない」とライブで歌っていたくらい。ところがその様子がテレビで放映されて、それを見た福島の地方紙「福島民報」の人から連絡が入ったんです。「福島を嫌いだと言っている人にこそ、今福島を元気にしてほしい」と言って、115周年記念の特集広告企画を頼んできた。そこで書いたのが、「207万人の天才」というコピーです。207万人というのは当時の福島県の人口です。福島の人はみんな何らかの才能を持っているのに、それを隠したり遠慮して表に出さないでいるんじゃないの?というメッセージを、紙面や福島のライブイベントを通じて発信していったんです。だから、震災の時にまず思ったのは、自分の家族や友達が住んでいる町で大変なことが起きたというだけじゃなく、そのイベントに来てくれた何千人もの人たちがきっと苦しんでいるということ。そう考えたら、放っていられないでしょう? 猪苗代湖ズの「I love you & Ineed you ふくしま」は、とにかく募金を集めないといけないという気持ちで、震災直後の3月17日からレコーディングをして3月20日から配信しました。

並河▶ あの時は、みんな自分ができることを必死で探していましたよね。

箭内▶ 僕はそれも“被災”と呼んでいて、全国の人たちが無力感に包まれ、苦しんでいたと思います。

並河▶ 僕はあの日、被災地で生まれた子どもたちがいることを知って、その子たちの写真を撮影して映像にする「ハッピーバースデイ3.11」というプロジェクトを立ち上げました。

箭内▶ この映像は無欲じゃないと撮れないよね。「俺はこんなすごいものを作った」とか、「これで賞を獲りたい」みたいな欲があると、こういう映像はすぐ気持ち悪くなってしまう。ただ、この映像には「生きていてほしい」「伝えたい」という欲にはあふれていると思います。こういう名誉欲を捨てるクリエイティブってすごく難しいなと思う。

並河▶ 「I love you & I need you ふくしま」では、2011年の紅白歌合戦に初出場されました。

箭内▶ 紅白歌合戦に出たかったんです、ものすごく。一番全国の注目を集める場で、広告会社にお願いしても絶対に買えない強烈なCM枠だと思っていたので。福島の今を絶対に伝えようという使命感で臨みました。

並河▶ 僕も現場にいたのですが、猪苗代湖ズの演奏のあとは、裾で見ていたスタッフも記者も全員が拍手していました。そして、2015年は福島県のクリエイティブディレクターに就任された。

箭内▶ 猪苗代湖ズの時からずっと、自分は県民側の人間だと思っていたんです。でも、震災から4年経って、県と県民の間にできていた溝をこのままにしてはおけないという思いが大きくなってきて。それをモチベーションに、県の中に入って行こうと思いました。

並河▶ 福島県で箭内さんは「ふくしまプライド」という県の農産物のPRをしていて、僕もお手伝いをしています。福島の農産物においしさや生産者のプライドが詰まっているという真実を堂々と語り、誇りを伝える企画です。「社会にいいこと」を無理やり仕事にしていくのではなく、社会のために活動していくことが自然と仕事になっていくんだなと、箭内さんを見ていると思います。

風とロック クリエイティブディレクター 箭内道彦氏

電通 コピーライター/クリエイティブディレクター 並河進氏

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