相対的に見てメディア接触時間におけるテレビの割合が減少している現代。広告売上に依拠した日本のテレビ局のビジネスモデルには変革が求められている。
テレビ広告の価値はバブル?
この10年間、視聴率は下がり続けている。在京キー局5社の年度平均全日視聴率(朝6時から夜12時の間の平均視聴率)の合計は、6.4ポイント下がり、下落率は約17%に及ぶ。これは、キー局1局分の視聴率が吹き飛んだようなものだ(図1)。
あわせてテレビ広告費も下落した。特にリーマンショックの影響を受けた2009年には、キー局5社の地上波放送の広告収入である、「タイムCM収入」と「スポットCM収入」の合計が、2005年度のピーク時と比べて2000億円近く下がった。その金額もキー局1社の広告収入に匹敵する。
ところが、2009年以降も視聴率は下がっているのに、タイム+スポット収入はそこから徐々に盛り返し、2014年度まで増え続けている。この現象に違和感を抱かないだろうか。
気になるのは「視聴率1%あたりのタイム+スポット収入」、つまり「テレビ広告の価格」だ。この変化を見ると、なぜか2009年度を底に、急激な増加に転じ上昇を続けている…。
この謎を解くカギは、実は“景気”にある。広告費は景気に連動すると言われるので、内閣府の景気動向指数の年度平均の変化と比べてみた。すると、視聴率1%あたりのタイム+スポット収入額の変化と、景気動向指数の変化は、見事に一致する。つまり景気が上向き続ける限り、視聴率が下がってもテレビ広告の価格は上昇し続けるという理論だ。しかし、これは今後も続くのだろうか――。
「テレビ広告の価格」は2014年度に、ピーク時の2006年度の水準を超えてしまっている。もしかするとテレビ広告は、その実力以上に高騰したバブル状態にあるのではないだろうか。アベノミクスの効果で、仮に2020年のオリンピックまでは景気がなんとか腰折れしないとしても、その後はどうなるのか。例えば、近年チャイナリスクが取り沙汰されるが、中国経済の不安定さは世界経済に大きな打撃を与える。そのチャイナリスクが表面化した時、日本の景気がどう影響を受けるのかは分からない。
2020年以降に景気は急に失速するという説はよく聞く。景気の腰が折れれば、パンパンに膨らんだテレビ広告という風船がはじけてしまうかもしれない。リーマンショックの時以上に激しく落ち込む恐れもある。その衝撃にテレビはどう対応すればいいのか。まず、テレビというビジネスモデルを考えてみる。
テレビ広告の限界
これまで地上波テレビ放送は、最強の広告媒体だったし、衰えたとはいえ今でも他のメディアを圧倒している。テレビ局は、このテレビ広告という非常に効率的に利益をあげる、つまりとても儲かるビジネスモデルを武器に、番組制作に巨額の予算をつぎ込み、常に新しいコンテンツを開発してきた。それによって多くの収益を上げ、さらに媒体価値を上げるというプラスのスパイラルを実現してきたのだ。しかも普通の産業と違い、有限の電波を割り当てられるため、競合がごく少数という極めて恵まれた経営環境の中で、外から利益を吸い上げる一方、中からは一滴たりとも漏らさないという経営思想で半世紀を歩んできた。
番組というコンテンツの領域では常に新たな挑戦をする一方で、ビジネス面では徹底的に変化を排除し、既得権益を侵すような動きはすべてつぶすというビジネススタイル。このとてつもなく保守的なやり方は、企業経営の観点からは非常に正しかったと思う。
しかし、ネットの登場により状況は一変する。これにより、新たな番組コンテンツの流通経路がどんどん拡大しているからだ。鉄壁だったはずのテレビの壁の外側に、動画配信という新しい市場が誕生してしまった。特に今年は、テレビ番組や映画などのプレミアムコンテンツがネット経由で本格的に視聴される「プレミアム動画元年」といえる。
SVOD(月額定額制の動画視聴サービス)では、「Hulu」や「dTV」に加え、9月からは世界の動画配信の巨人、Netflixが日本でのサービスをスタートする。
特にNetflixはテレビ画面での視聴を本格的に狙ってきている。すでに東芝やパナソニックのテレビのリモコンにはNetflixボタンが付き、地上波テレビを見ていても、ボタン一つでNetflixに移れるようになりつつある。当然、HuluやdTVもテレビ画面での視聴を意識するようになり …