グラフィック、映像制作、インスタレーションや空間デザイン、サウンドデザインなどの幅広い分野で、メンバーの多様な個性や得意分野を再構築しながら創造性と独創性にあふれた作品を生み出し続けているTYMOTE(ティモテ)。彼らと仕事経験のある電通 アートディレクターのえぐちりかさん、イベント&スペース・デザイン局の藤田卓也さんが、TYMOTEから村井智、森田仁志、山口崇洋の3氏を迎え、そのクリエイティブワークの発想、手法に迫った。
美大生仲間が集まって立ち上げたクリエイティブチーム
えぐち▶ 昨年末に、CMのお仕事でご一緒させていただいたのが、TYMOTEとの出会いです。軽やかにひょうひょうと素敵なお仕事を生み出されている印象ですが、実際どうものづくりをされているのでしょうか?今日は色々とおうかがいできればと思います。
藤田▶ 手触り感やぬくもり、エモーションが僕の好きなTYMOTEらしさです。作風の幅が広いのに、どの作品からも共通して感じます。そんなTMOTEの魅力と謎に、今日は迫りたいと思います。
村井▶ TYMOTEは1980年代生まれのメンバーが、学生時代に立ち上げたクリエイティブチームで、現在9人です。2007年に横浜赤レンガ倉庫で行われた展示会「The SIX」のために、多摩美術大学、武蔵野美術大学、桑沢デザイン研究所などから仲間たちが集まって、初めて「TYMOTE」として作品をつくりました。基本的には“グラフィック好きの美大卒がつくった会社”ですが、映像から空間、グラフィック、サウンドデザインまで何でもしますし、それが強みになっています。
藤田▶ TYMOTEといえば映像のイメージが強いですが、インスタレーションやグラフィック系のお仕事にはどんなものがあるんですか?
森田▶ 昨年TYMOTE全体で手掛けた仕事でISSEY MIYAKE INC.の2014年ホリデープロモーションの「MESSAGE」という企画をつくったのですが、ビジュアル、映像、Web、店頭ディスプレー、店内インタラクションまで一括で担当しました。ギフトがテーマだったので、感謝の気持ちや言葉を贈れたらいいと思い、ブランドの限定商品を使ってAtoZのタイポグラフィーをつくりました。
山口▶ 特設サイトでは、文字一つひとつにサウンドファイルを割り当てて、好きな言葉をムービーファイルにして送信できるようにしています。店頭でも、キーボードをタイプすると、文字が出てきて音楽を奏でるような仕組みをつくりました。
村井▶ グラフィックチームがタイポグラフィーをつくり、そこに仲間がいろいろなアイデアを持ち寄ってくる。一緒に仕事をする中で、そういうスタイルになってきました。
えぐち▶ NYADCでもゴールドを取られていた仕事ですね。素敵です。
藤田▶ 僕がTYMOTEとご一緒したのは、日清食品グループの技術・開発・研究拠点である「the WAVE」のための説明ムービーの仕事です。研究開発についての説明や、開発者へのインタビューといったコンテンツを、少しでもかわいらしくしたいと思ってお願いしました。15分ぐらいの長尺映像ですが、TYMOTEらしいテイストで、子どもでも最後まで見てもらえるムービーになりました。
えぐち▶ 映像の音は一人でつくっているんですか?どんな経緯でグラフィックデザインから音の方面に?
村井▶ 僕が一人でつくっています。映像もグラフィックも複数やれる人間がいるので、そこを引っかき回すより、違うことをしようと。音楽だと、両方とうまくつながったんです。
えぐち▶ グラフィックのトーンが違っても、共通するTYMOTEらしさがあるのは、毎回同じ人が音をつくっているからかもしれないですね。
森田▶ そうですね。それから、何かお話をいただいたとき、こういう感じにするのがいいよね、と選ぶ感覚が僕らは似ています。
村井▶ 個々人が自分の考えや好みはありつつ、TYMOTEという架空の存在が何をつくるかに皆が気を使っている感じはありますね。空気をすごく読むというか(笑)。
個々の経験をフィードバックして全体をレベルアップする
山口▶ いま活動7年目に入りましたけど、最近はそれぞれ自分のやりたいことも見えてきて、TYMOTEで活動しながらも、自分でアパレルブランドを立ち上げる人がいたり、別のクリエイティブチームを立ち上げたりとメンバーは活動の幅を広げています。
村井▶ 全部無理にTYMOTEでやることはない、でもTYMOTEらしさも突き詰めていこうという感じで。チームワークから生まれる表現や、柔らかい気の利いた表現はもっと追求していきたいですね。
森田▶ それぞれが自分の分野でレベルアップして、TYMOTEにフィードバックさせている感じです。
藤田▶ 皆が感度のいいアンテナを持っていて、共有できているのがいいですね。最近はどんな仕事が増えているんですか?
森田▶ 海外からの仕事も増えていて、最新はシドニーのオペラハウスへのプロジェクションマッピングの仕事をしました。海外の場合Vimeoからコメントやメッセージが来て、そこから仕事につながったりもしています。JINSのアイウェア「JINS MEME」をデベロッパー向けにイントロダクションするムービーも最近の仕事です。
えぐち▶ ビジュアルだけで分かりやすく、面白く伝えるのが得意ですよね。
森田▶ ムービーで、言葉の説明に頼りすぎるのが嫌なんです。できるだけ情報を削り、直感的に分かるよう心掛けています。
藤田▶ 次に手掛けていきたい領域はありますか?
村井▶ 僕の場合は実写映像です。今年公開した成田空港「ターミナル3」のインタビュー動画では、監督と音楽と編集に挑戦しました。いつもやったことのないことに挑戦していますが、TYMOTEがいいのは、不安を感じたらすぐメンバーに確認できることですね。
森田▶ 映像をつくる際にも、すぐ音の相談ができる。いい空間だと思います。
森田▶ 僕はイッセイミヤケのような、チームで取り組める仕事を増やしていきたい。皆でやれる楽しさ、皆で考えるからこその爆発力を感じましたし、その上で評価もしてもらえた、手応えのあった仕事でした。
村井▶ 僕らは運がいいんです。食えない時もあったけど、先輩や仲間が面倒を見てくれた。おまえら面白そうだからチャレンジしてみろよと仕事をくれて、それで実績ができていった。学生から仕事を始めているので、最初は仕事の取り方も、自分たちに何ができるかも、どう世の中にアウトプットされるのかも分からなかったですから。
森田▶ だから、毎回オーバークオリティーを目指して…を繰り返してきたんですよね。
えぐち▶ 頼む側も、そうやって持ってきてくれたらうれしいですよね。今日はありがとうございました。
左から、TYMOTE 山口崇洋氏(やんツー)、森田仁志氏、村井智氏
電通 アートディレクター えぐちりか氏、電通イベント&スペース・デザイン局 藤田卓也氏