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「見た目のわかりやすさ」より「ストーリーとしてのユニークさ」の見つけ方

西村幸夫(東京大学 先端科学技術研究センター 所長)

今年5月、長崎の軍艦島をはじめとした「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」について、ユネスコの諮問機関である「国際記念物遺跡会議(イコモス)」が、世界遺産登録をユネスコに勧告。世界遺産委員会で正式決定される可能性が高くなっている。このイコモスの日本の委員長を務める西村幸夫教授に話を聞いた。

東京大学 先端科学技術研究センター所長 西村幸夫(にしむら・ゆきお)さん
1952年、福岡市生まれ。東京大学都市工学科卒、同大学院修了。明治大学助手、東京大学助教授を経て、96年より東京大学教授、2011年より13年まで東京大学副学長、13年より先端科学技術研究センター所長。また、アジア工科大学助教授、MIT客員研究員、コロンビア大学客員研究員、フランス国立社会科学高等研究院客員教授などを歴任。日本イコモス国内委員会委員長、国土交通省国土審議会委員、文化庁文化審議会委員なども務める。専門は都市計画、都市保全計画、都市景観計画など。工学博士。

見た目の分かりやすさからストーリーのユニークさへ

西村教授の専門は「都市計画」。東京大学先端研の所長であり、同時に、日本イコモス国内委員会の委員長も務める。今回、軍艦島などの一連の施設が「世界遺産に登録が適当」という勧告をイコモスが行った背景にはどのようなことがあったのだろうか。

世界遺産と言われて思い浮かぶのが「ピラミッド」「万里の長城」といった、見て一瞬でそのすごさや価値がわかるもの。西村教授によると、こうしたものがまず世界遺産に登録されていったという。一方で、例えば一見するとただの小高い丘だが、実はそこは地元の人にとっては聖なる場所で、年に1度大きな儀式が行われる、といった場所などは、説明されて初めて「ほかにはない文化的価値がある」ということがわかる。西村教授は、「価値がわかりにくいからこそ、それをきちんと相手の心に響く物語にすることが、最近の世界遺産登録においては大事になっています」と話す。

では、今回の軍艦島の件はどのようなストーリーが心に響いたのか?その理由は大きく二つあるという。ひとつは、日本は1850年からわずか5、60年という、欧米に比べても速いスピードで近代化を成し遂げたこと。そして、その近代化が、単に欧米先進国の技術が伝わっただけではなく、日本の職人技術と結びつき、自分たちで工夫して努力し、改良を重ねて成し遂げられたものであること。もうひとつが、資本家による「儲けるための産業革命」ではなく、「国防のため、国を挙げて計画的に成し遂げられた産業革命」である点だ。

「日本は、近隣諸国が植民地になっていくのを見て、当時の国防に欠かせなかった軍艦を作ろうとしました。鉄の船を作るわけですから、造船業と製鉄業、そして動力として石炭が必要でした。そこで国を守るために国家主導で計画的にこれらの重工業が強化され、産業革命が進んでいったのです。これは、欧州の“資本家がさらに儲かる”という産業革命とは全く異なります。こういう違いをしっかりストーリーに落とし込んだからこそ、その価値が伝わり、今回の勧告につながったのです」。

イコモスによって世界遺産登録が適当と勧告された、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」には、長崎の端島(通称:軍艦島)も含まれる。ほかとは異なる点を価値あるストーリーとして伝えることが重要となる。

*この写真は調査のために特別に立ち入り許可を得て撮影したものです。

違いはほかの文化とぶつかることで見つかる

世界遺産の登録に向けたストーリーづくりで大切なのが …

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