
仮説導出の「センス」に着目
日本マーケティング学会では2014年4月から、リサーチプロジェクトとして「質的リサーチ研究会」を運営している。本稿ではその概要と目的について紹介する。
マーケティングのリサーチでは仮説を検証するスタイルが主流となっている。多くは定量分析によってなされている。しかしながら、仮説を導出するというのは非常に人間的である。リサーチャーの主観や経験を排除はできない。おそらく、現場を経験したことのあるリサーチャーと未経験者とでは、仮説そのものに差が出てくる。
リサーチャーが良い仮説を導出しなければ、その後の検証結果はありきたりのものになってしまう。そこで、より良い仮説を導出するための「センス」を高めることが重要ではないかと思われる。そのセンスを高めることが、アブダクションという推論のクオリティを高めるのではないか。本研究会の目的はそこにある。
しかしながら、アブダクションのセンスを高めるといってもどこから手を付けてよいものか、それは難しい話である。確かに、KJ法といった手法は一般的に普及しているものの、それだけでは不十分であろう。そもそも、リサーチャーの「ものの見方」そのものに影響を与えねばならない。そこで、本研究会では、(1)物語性(2)消費者ペルソナ(3)アフォーダンスという3つのキーワードから、現場で起こる現象をいかに観察するかという課題に接近しようと試みる。
自分の性格パターンを知る
まず、(1)物語性について。人々の認識のありかたを、物語の構造を通して理解するものと捉えようとする。商品を通じたマーケティング現象において、消費者は主人公であるとみなし、主人公と商品とは欲望の関係にあると考える。そして、その商品の提供者と受け手の関係。主人公をサポートする存在と、ライバルの存在との関係。これらの関係を物語の構造と捉え、物語性を通して人々は現実を理解すると考える。
商品コンセプトを考える際、どのようなシーンで商品が使用されているかを想定する必要がある。そのシーンというのはまさに、物語なのである。商品コンセプトを言葉として伝達するのではなく、物語のシーンとして表現する。消費者側の解釈はさまざまかもしれないが、個々人でその物語から何らかのメッセージを読み取り、自分にとってその商品が欲望の対象であることを正当化していく。
次に、(2)消費者ペルソナについて。先述の物語にはさまざまな登場人物が出てくる。主人公とその家族や友人など、各人はそれぞれ異なったキャラクターを持っている。そこで、どのようなキャラクターとしてそれぞれを理解すればよいか、という指針を考える必要がある。
研究会の参加者は、自分がどの性格パターンなのかを知ることで、自分のものの見方の傾向を再認識あるいは再発見する。このような自己の相対化を通して、現実の見方に関するセンスは、より高まる可能性に拓かれると思われる。
そして(3)アフォーダンスについて。アフォーダンスとは人々の行為を導く環境側の情報だと理解できる。そこには ...