5月15日、「CSRから進化するコーポレートマーケティングセミナー」と題したセミナーが、医療・人道援助に取り組む国際NGO団体 国境なき医師団主催のもと、行われた。セミナーには企業のマーケティングや広報、CSR部門の担当者を中心に80名以上が集まり、今後の企業マーケティングのあり方ついて、事例を交えて紹介された。
キリン CSV本部 CSV推進部 太田 健氏(左の写真)と、(右の写真:左から)味の素 CSR部 専任部長 中尾洋三氏、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス ヘッド オブ コミュニケーション 伊藤征慶氏、富士フイルム CSR推進部環境品質マネジメント部長 兼 富士フイルムホールディングス 経営企画部CSRグループ 統括マネージャー 川﨑素子氏
経済的・社会的価値を創造
第1部「キリンが推進する経営戦略CSVでソーシャルグッドを実現するには」の講演では、キリンCSV本部 CSV推進部 太田健氏が登壇。キリンは、2013年に飲料事業を一体化する組織変革を行うと同時に、国内で先駆けて「CSV本部」を設立した。当時の状況について太田氏は「清涼飲料市場はコモディティ化しており、これまでのブランド戦略では立ち行かない状況だった。そこで、商品ブランドの創出とCSVを両輪で実践することにより、ブランド戦略の一新を図ることが狙いだった」と話した。
これからの企業マーケティングのキーワードには「両立」を挙げ、「CSVは企業が成長する上で戦略的な思考そのもの。今後は、事業を通じて経済的価値と社会的価値の創造を両立させることが重要」とし、同社のCSVを最も体現している商品の事例を紹介。「2011年から継続している東北復興支援の取り組みの一つとして『キリン氷結® 和梨』を期間限定で販売している。これが好評だったことから、今年は『キリン 氷結® 福島産桃』を発売した。和梨同様、福島産の桃を使用することで、福島の農業を応援し、福島の豊かな恵みを伝えている。キリンは『飲み物』を進化させることで、消費者の日常に新たな価値を創造していく」と語った。
第2部では、国境なき医師団の世界28支部における取り組み事例や同団体と企業との協業の可能性について紹介がなされた。
第3部は「未来のコーポレートマーケティングはどうなるか、先進企業の考えと課題とは」として、パネルディスカッションが行われた。2005年に社内でCSR部門を立ち上げた味の素の中尾氏は「CSRはこれまで事業と別物として捉えられてきたが、事業を通じてCSRを実践することで、結果的に企業ブランドの価値向上、ファンづくりにつながる。事業の中に仕組みとして入れ込んでいくことが重要」と強調。
2020年までにビジネス規模を2倍にすると同時に環境負荷を1/2にする「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を掲げるユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの伊藤氏は「当社には、CSRなどのサスティナビリティ単体の部門はない。サスティナビリティの戦略は事業の中にあるため、一つの部門が全体をリードするということはない」とし、富士フイルムの川﨑氏は「環境への配慮は創業以来のDNA。写真フイルムの製造には、大量の清浄な水や空気が不可欠であり、もともと環境資源への配慮は企業意識としても高い。少し前までは、写真の現像は『試す』ということができなかったため、お客さまに信頼をしてもらうことが特に最重要課題だった。事業を通じて社会課題の解決に寄与することは社内に根付いている」と話した。
NGOをはじめとする外部パートナーと組む際の選定基準ついて話が及ぶと、「まだ明確な基準はなく、現在は国際的にも知名度が高くブランド力の高いNGOと組むことが多い」(中尾氏)、「社会課題を解決すためには、企業として支援する団体・プログラムを絞らないといけない。取り組む領域における活動実績がしっかりしていることや専門知識があることに加え、我々がグローバルでビジネス展開をしているため、国際的な規模、ネットワークを有している団体であることが選定基準」(伊藤氏)などの考えが話された。