ファストフード業界の中では珍しく、手間と時間とコストをかけて商品を提供することをモットーとするモスバーガー。消費者の健康志向が高まる中、これまでも「おいしさ」だけでなく、「安心・安全」にこだわってきたモスフードサービスのブランド戦略について聞いた。
コミュニケーション戦略
テレビCM モス野菜バーガー「想いも見える野菜だけ」篇。
2014年11月に行った「採れたてトマトのモスツアー in 静岡」。参加者たちはトマトの収穫やハンバーガーづくりを体験した。
同社の「こだわり」を伝える店頭ポスター。お店で使用している生野菜の魅力を訴求している。
業種を越えた“胃袋”の争奪戦
昨年起こった異物混入事件の影響も受けるファストフード業界。日本の外食産業を統括する業界団体、日本フードサービス業界が公表する最新の外食市場動向(2月)では、ハンバーガーチェーンを主とする洋風ファストフード業界は、売上が前年比83.8%と大幅なマイナスを記録した。
そうした状況下で、ハンバーガーチェーンのシェア2位のモスバーガーは、2014年4~12月の売上高は0.7%減だったものの、ここ数カ月の売上は好調だ。モスフードサービス ブランド戦略室長の川越 勉氏は、変化の波が激しい昨今のファストフードを取り巻く市場環境について、次のように話す。「家で食事を摂る『中食』や『内食』をする生活者が増えており、ファストフード業界だけでなく、コンビニエンスストアやスーパーの総菜売り場など、業種の垣根を越えて“胃袋”の争奪戦になっています。1日3食の食機会において、モスバーガーをいかに選択肢に入れてもらえるかが勝負であり、現在は食料品を売っているところすべてが競合だと言えます」。
“手頃な価格で買える食べ物”の選択肢が無数に存在する現代において、味やサービス、価格など、消費者に選ばれる理由がなければ埋もれてしまう。さらに継続して消費者の食機会の選択肢に入るためには、長期的な視野に立ったブランディングと消費者にどんなメリットを提供するかが重要になる。
「安心・安全」という付加価値
モスバーガーは1972年の創業から変わらず、味と品質の両方を追求してきた。川越氏は、そうした姿勢が現在に至る同社のブランド価値につながっていると言う。
「元々、当社には、日頃からバランスの取れたおいしい食事をすることで病気を予防しようという『医食同源』に近い考え方がベースにあります。調理の簡潔さや早さ、低価格を追求する効率的な商品づくりより、手間ひまや原価をかけてでも、おいしく、健康的なものをつくることが当社のスタンスです。そうして形成された当社のブランドイメージとしての強みは、
(1)商品そのものの品質の良さ
(2)手作りできちんとつくっていること
(3)地域に密着したお店づくり
の3つだと捉えています。あるブランド調査では、特に、他の人にお勧めしたいかどうかという推奨意向のポイントにおいて、高いスコアをつけていただいています」。
他人に勧めてもらうためのブランド価値、そのカギを握るのが「付加価値」だ。同社では、その付加価値を「安心・安全」に置いているという。「例えば、生野菜はすべて国産で協力農家と直接取引しており、社員が畑まで赴いて野菜の状況を確認するなど、品質管理も徹底しています。ファストフードでは、野菜の鮮度はあまり重視されないと思いますが、各店舗には畑でとれたままの状態で野菜が届けられてお店でカットしており、新鮮さには強いこだわりを持っています。野菜を切ってから保存できる時間がルールで決まっており、レタスは4度の水で冷やしてシャキッとさせます。つくり置きをせず、注文をいただいてからつくっているため、できるだけ鮮度の高い状態で野菜を提供することができます」。
裏側のストーリーをどう伝えるか
そうした取り組みの成果は …