「前例通り」が通用しないのが、変化の激しい今の時代。特に消費者のお気に入りメディアがスマホへシフトするなど、メディア接触が大きく変化する中で、マーケターは常にチャレンジが求められる厳しい仕事になっています。そんな環境にポジティブに向きあい、挑戦を続けている新時代のマーケターの方たちに、現在の課題、そして未来構想を伺います。
錦織圭選手がテニスラケットを木刀に持ち替え、華麗なプレイを披露する、カップヌードルのCM「SAMURAI-K」篇、シュール過ぎると話題を呼んだ「カレーメシ」のCMなど、ターゲットである若年層の共感を重視したクリエイティブを展開している日清食品。若年層との絆を深め、マイブランド化を目指すコミュニケーションにおいて、スマホというデバイスの活用可能性をどう捉えているのか。
あらゆる年代でメディア接触行動は大きく変化していますが、特に若年層におけるテレビ接触時間の減少は顕著な動きと捉えています。とはいえ、リーチメディアとしてテレビが重要なことに変わりはないので、マス広告とデジタルの掛け合わせ方が重要だと考えています。
そこで着目しているのが、若年層は「仲間とのコミュニケーションづくりに関心が高い」ということ。企業のCMであっても、友達とのコミュニケーションツールに活用してもらえるようなクリエイティブであれば、拡散の効果も期待できます。例えば「カレーメシ」の非常にシュールなCMは、多くの若い人たちから支持していただきましたが、企画を決定する際には、理解してもらえない人も多いクリエイティブでした(笑)。それでも、企画が通ったのは、コアターゲットを明確にし、そのターゲットと接触できる場で深く刺さるクリエイティブを発信していくことが当社の宣伝戦略の基本だからです。
ここ数年の活動を通じて、コンテンツの拡散方法やコアターゲットの共感を得るクリエイティブづくりの知見は蓄積してきました。次のステップとしては、自社で販売チャネルを持たない当社のような業態で、売上に対する「共感・ブランドとの距離感」の貢献度をいかに可視化していくのかに取り組んでいきたいと考えています。
また若年層との接点を考える際に特に欠かせないのが、スマホの活用です。それは電話としての機能だけでなくPC、カメラ、テレビ、ラジオ、ゲーム機、音楽プレーヤー、書籍・新聞といった機能がすべて1台のスマホに内包され、生活になくてはならないものになっているからです。常に携帯するスマホはスキマ時間に使用されることも多く、限られた時間の中で効率的に情報が得られるキュレーションメディアの利用拡大は、スマホの浸透があってのことだと思います。
そのような中、今年の1月1日から放送を開始した当社所属テニスプレイヤーの錦織圭選手が出演するCM「SAMURAI-K」篇で、Antenna(アンテナ)を利用しました。創業者の安藤百福も「食とスポーツは健康を支える両輪である」と語っていた通り、スポーツマーケティングは注力の領域ですが、錦織選手がCGなしで木刀でプレイをする迫力あるCMはテレビ放映直後からSNSで話題になりました。それでもリーチできる人は限られてしまう。今回Antennaでの新しい試みとして、単に動画を掲載するだけではなく、1月初旬に錦織選手注目まとめ記事、テニス注目まとめ記事でAntennaユーザーの関心を自然に高めた後に「SAMURAI-K」篇の60秒版(特別版)を自動再生動画として配信。結果、Antennaのさまざまな広告案件の中でも記事シェア数1位の案件になったようです。Antenna内に流れている日常のコンテンツと、日清食品のコンテンツを組み合わせることで、自然な文脈で動画との接点を増やすことができたと考えています。
マスとデジタルのシナジーを生む戦略は、広告であっても「また見たい」と思ってもらえるだけの共感を生むクリエイティブがあってこそ、実現するもの。これからも伝えるべきブランドの核はぶらさずに、その時代に合わせたコアターゲットに刺さる広告表現に挑戦していきたいと考えています。
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日清食品ホールディングス 執行役員 宣伝部長
1980年日清食品に入社。その後、営業・営業企画・マーケティング業務を担当。2011年4月より現職。宣伝業務を担当。 |