ZEPPELIN 代表取締役 鳥越康平氏(とりごえ・こうへい)
京都工芸繊維大学卒業後、韓国サムスン電子にてUX・UIデザイナーとして従事。帰国後2005年10月にZEPPELINを設立し、現在は、デザインを軸に、ビジョン形成や新規事業開発に力を入れている。
UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン
「美しさ」の追求が新たな価値基準に
例えばここ30年程の間に、日本中を覆うように増え続けている高速道路。これは、豊かさや便利さを追求し続けてきた経済大国としての象徴とも言えるかもしれない。しかし、一体どれくらいの人々がその必要性を感じているのだろうか?
ZEPPELIN(ツェッペリン)代表取締役の鳥越康平氏は次のように語る。「私は、高速道路で2時間かかる道のりについてUX視点で考えたとき、『高速道路をなくす』という発想をします。速さではなく、目的地までに通る町や村で起こるストーリーにこそ、価値があると考えるからです。つまり、その町特有の農作物や、その土地の人々との対話といった体験をデザインし、新しい体験軸を生み出すことで6時間かかる道のりは、無味乾燥な2時間の道のりよりも、はるかに温かく、出会いや発見の多い価値ある道のりになると思うのです」。増やすのではなく、減らすことから価値を生み出すという、逆転の発想だ。
高度成長期以降、時代の流れは豊かさや便利さが最大の達成目標とされる傾向が加速し続けた。できるだけ多く、早く、何かを増やすことばかりを追い求めてきた。しかし、モノにあふれた飽和状態を続けていくことが、これからの社会、私たちにとって本当に必要なことなのか。この問いに対し、同社は、「美しさ」の追求が新たな価値基準の一つになると提唱している。高速道路の例に戻れば、寄り道とも言える一つ一つの小さな体験をじっくりと味わいながら進むという行為、そこに人間らしい「美しさ」があると考えるのだという。
同社は、デザインを軸としながら、新しい体験(ユーザーエクスペリエンス)を生み出す組織だ。ビジョン形成や新事業創出からUX/UIデザイン、製品やサービス、アプリケーションの企画・開発を事業とするベンチャー企業だ。鳥越氏は「今後、選ばれ残っていくのは、フィーチャーフォン時代に1mmの薄さを競い合ったような細かな機能や、他社との優位性を追う考え方ではありません。『存在意義』を問い続けることで描き出された“ビジョン”と、そのビジョン達成に対するパッション(熱量)があること、これら2つから生み出されるものだと思っています」と話す。
ビジョンから発想し、事業を進めていく方法は、新しい物事を生み出す際に強い力を発揮する。先の高速道路を例に考えると、「これからの時代に必要なのは、都心への一極集中ではなく地域と地域が密につながることで生まれる新しい出会い」というビジョンを設定したとする。ここから発想していくと、便利な高速道路はあえてなくし、その間の地域をつなぐ人々の出会いの場や、出会いを促す文化の醸成をデザインする必要がある、という発想に広がっていく可能性がある。「明確なビジョンを元にした発想は、これからの時代に選ばれるものづくりの核であり、次の時代を作り出すイノベーションにつながります」。
「美しさ」は人間本来の感覚の中に宿る
ものづくりにおける具体的な発想法として、ZEPPELINでは「人間の五感」を大切にしているのだと言う。例えば、渡り鳥が互いの意思疎通なく瞬時に方向転換する際に行う「シンクロ」という動物的感覚や、様々な感情(喜び、悲しみ、嬉しさ、怒り、愛情など)のうち、ある一つの感覚に100%満たされている瞬間に感じるという生命の充足感などが挙げられる。同社では、そのような人間が本来持っている生物としての自然な姿、感覚が満たされる姿に「美しさ」が宿るとし、プロジェクトの初期段階で行なうビジョン形成やコンセプトづくりに取り入れている。
同社がサービスの改善を図ったUX/UI開発の事例の1つとして、NTTドコモのスマートフォン向けアプリケーション「しゃべってコンシェル」が挙げられる。2014年3月のリニューアル時に、UX/UIデザインを得意とする同社が検討に加わり、NTTドコモの「音声入力の機能的な部分だけではなく、キャラクターとの会話そのものを楽しめるより洗練されたUXをつくりたい」というビジョンの実現に向けて、UX/UIの見直しを図った。
まず10年後に「しゃべってコンシェル」がどのような存在になってほしいのかを描き、ビジョンをまとめ、デザインの段階では、使いやすさや親しみやすさを確保できる基本機能を固めつつ、ワクワク感や感動を与える魅力的な付加価値を実現するためのUX/UIを検討した。さらに、ユーザーがスムーズに音声で操作し「キャラクターとの対話」そのものに没入できるよう、すべてのディテールにこだわり、UI/GUIを設計した。音声入力による操作や情報検索を簡易化するだけでなく、操作プロセスそのものを楽しめるように、キャラクターと対話する際の演出にこだわったという。
その結果、キャラクターと雑談が楽しめるほどのレベルまでコミュニケーションが向上し、便利さと楽しさを兼ね備えたサービスへと進化した。現在では、ユーザーが1500万人を突破。2014年度の「グッドデザイン・未来づくりデザイン賞」を受賞した。
「美しさ」という価値を軸に、そこから作り出したビジョンへ向かって、膨大な熱量を持って突き進む。同社は「新しい時代は自分たちの手でつくられる」と信じ、「美しさ」について一人ひとりが考え、実行に移せる時代を作ること、「WE CREATE BEAUTIFUL WORLDS」をビジョンに掲げ、さらなる価値の創出を図っていくという。
スマートフォンに向かって話しかけると、「意図」に適した回答を自動で画面に表示する「しゃべってコンシェル」。新たな体験を実現するUIを提供することで、ユーザーの増加に寄与したという。
ドコモ担当者の声
これまでドコモでは、いくつかの音声入力系サービスを導入してきましたが、それらは機能的な面が先行しており、機械的にスマートフォンに指示を出すようなユーザーインターフェイスでした。今回は、“好きな『しゃべってキャラ』との会話も楽しめる”という要素を含めたサービスコンセプトの実現が重要であり、これまでの音声入力系サービスの発想とは別の要素が必要でした。そこで、社内関連部との検討の結果、“しゃべってコンシェル”のサービスコンセプトに一番相性がいいと思われるパートナーとしてZEPPELIN様を選定させていただきました。従来のドコモにはなかった新たな体験を実現するユーザーインターフェイスを提供していただき、非常によい成果を出していただいております。
企画協力
株式会社ZEPPELIN
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担当:事業戦略部 郡山