メディアの多様化によって広告出稿のパターンは複雑になり、多くの企業が「最適な広告のあり方」を求めて悩んでいる。そうした中、2014年10月30日に大手町サンケイプラザ(東京)で行われた「先進企業に学ぶ 最適な広告のあり方」セミナー(主催:野村総合研究所)では、日本コカ・コーラや日本航空など、広告効果測定を効果的に取り入れている企業や専門家が登壇。効果測定の潮流や、広告主自らが考えて、広告宣伝のPDCAサイクルを構築していくことの重要性などについて意見が交わされた。
早稲田大学 商学学術院教授 守口 剛氏は、最新の効果測定に関する潮流や、研究結果について講演を行った。
広告効果測定をめぐる最新学術研究
最適な広告を展開するためには、広告主自らが率先して考え、評価し、正しいPDCAサイクルを構築することが求められる。「先進企業に学ぶ最適な広告のあり方」と題された本セミナーでは、前半は「広告効果測定のバリエーション」というテーマで早稲田大学 学術院商学部の守口 剛教授が登壇した。
守口教授は、日米共に実は販促費が広告宣伝費の3倍かけられているという調査結果を紹介。売上達成のために流通向け販促費を大量に投入した結果、大きく利益を削るというアンバランスな状況があり、企業にとってこのコストとリターンの最適化が経営上も重要な課題であることが示された。他にも、生体反応などを使った最新の効果測定手法や、クリエイティブが広告効果を左右する最も大きなファクターであるといった最新の研究結果が紹介された。
各社各様効果測定の考え方を披露
パネルディスカッションでは、広告効果測定の実践状況や、それを広告会社などのパートナー企業とどうシェアして次につなげているかなど、成果を高めるための取り組みについて各社が言及した(左から、カゴメ 西村晋介氏、日本航空 宍倉幸雄氏、日本コカ・コーラ 大澤央人氏、森永乳業 寺田文明氏)。
後半のパネルディスカッションは、「広告の最適化を実践する企業に聞く、成果と今後の取り組み」をテーマに、カゴメ コーポレート・コミュニケーション本部メディアコミュニケーション部 広告グループ課長 西村晋介氏、日本航空 宣伝部長 宍倉幸雄氏、日本コカ・コーラ マーケティング本部IMCコンテント エクセレンス 大澤央人氏、森永乳業 広告部長 寺田文明氏が登壇した。各社のメディアプランに対する考え方や、何を指標として効果測定を行っているかが紹介された。
日本コカ・コーラの大澤氏は、同社のメディアプランの考え方について「テレビやOOHなど必ずターゲットに届くものを選択した上で、『この場所に行くと実際に飲めるらしい』といった口コミを広げ、リアルな場に来てもらうことを重視している」と話した。2014年に話題を呼んだアイスボトル(氷ボトル)キャンペーンはまさにその成功例。マス広告からデジタル、リアル施策までをつなぐ考え方を披露した。
広告の成果指標については、「意識変容と、ターゲットにメッセージが届いているかで評価する」(カゴメ 西村氏)、「社内データ(運賃への貢献額)と外部データ(新路線・新サービスの認知率および利用意向の上昇度)の2軸で見る」(日本航空 宍倉氏)、「その日の天候と競合の状況、配架率、インストアMDの実行率をレポーティングしている。キャンペーンは認知経路やどのようにメッセージが届いたか、ブランド・購入に貢献したかを細かく見る」(日本コカ・コーラ 大澤氏)、「計画系(コンセプトなど)、リアルタイム系(サイトアクセスなど)、PDCA系(ネット調査など)、管理系(四半期でのROIなど)の4軸で評価する」(森永乳業 寺田氏)など、4社4様の実践がなされていた。
野村総合研究所のシングルソース分析ツールである「インサイトシグナル」(下記参照)を活用している企業からは、「新しい気付きを得るためのツールとして活用している。新規の女性ターゲットを狙ったが、実は既存の男性ユーザーが動いた、といったことが明らかになった場合、データを基に理由を議論し、次の仮説づくりにつなげていく」(カゴメ 西村氏)、「クロスメディアを使ったキャンペーンのメッセージ評価に使っている。これまで3年間データを蓄積したことで、最適なGRPについての知見が得られた。施策ごとの効果による小さな変化も見逃さなくなり、様々なディスカッションのきっかけになっている」(森永乳業寺田氏)という。広告会社などパートナー企業も交えながら、広告主がどう目標を達成していくかを建設的に考えるためのツールとして活用すべきと指摘された。
What's INSIGHT SIGNAL?
シングルソースデータによるマーケティング戦略の効果測定
野村総合研究所「インサイトシグナル」
クロスメディア型の施策の効果測定手法として有効とされているのが、「シングルソース」によるキャンペーン効果測定である。シングルソースとは、メディアの接触から商品の購入実態・意向まですべてを同一の調査対象者に一貫して聞き、把握することを指す。野村総合研究所の「インサイトシグナル」は、関東の20~59歳約3000名を対象に調査を実施し、マルチクライアント方式でデータを提供している。
従来の調査では、広告認知者=接触者とみなすことが多く、実際の広告による変容よりも購入意向が出る傾向があった。インサイトシグナルでは、CM接触のないサンプル群と接触したサンプル群を比較することで、CMの効果を“正しく測る”ことを特徴としている。また、複数メディア間の「重複率」と「重複の効果」を集計することで、最適なメディア出稿パターンをシミュレーションすることもできる。
2008年のローンチ以来、あらゆる業界で採用され、現在約140社の企業が「インサイトシグナル」を利用する。年間400本から500本の調査が行われ、長期間にわたって導入する企業が多い。長期に使用し続けることで、数字とノウハウが蓄積され、感覚やバイアスに左右されずに、意図を持ってプランニングができるようになる。広告の効果測定をデータに基づいた科学的なアプローチで実施するためのツールである。
数字に意思を入れて戦略につなげていく
広告メディアや手法の広がりだけではなく、Eコマースなど流通チャネルも広がりを見せる中で、企業が取るべき打ち手はますます多様化・複雑化している。その中で、あらゆるキャンペーンを横軸で評価できる体制を整えていれば、新しい試みにも恐れずチャレンジでき、自社の知見へと還元していける。「数字に意思を入れる」という日本航空 宍倉氏の言葉通り、あらゆる施策もその結果も、主体的に動かしていく姿勢が求められている。
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