エンターテインメントを中心に、個人の嗜好に合ったライフスタイル情報にアクセスできるサービス「T-SITE」がオープンした。既存サービスの大幅リニューアルやID統合などを通じて、5000万人のT会員データベースに巨大なプラットフォーム構築を指揮した櫻井徹氏に開発の意図とビジョンを聞いた。
5000万人のT会員基盤をもとに、ユーザーの趣味・嗜好を予測したコンテンツを表示する「T-SITE」。
まだ知らない「好き」と出合えるレコメンドシステムを構築
CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループは10月20日、「あなたの好きが集まる、見つかる」をコンセプトにしたネットサービス「T-SITE」を提供開始した。5000万人のT会員データベースをもとに、独自のロジックでユーザーの趣味・嗜好を予測しコンテンツが表示されるワン・トゥ・ワンレコメンドが特長。さらにTSUTAYA onlineやTSUTAYA DISCASなど、グループが運営してきた複数のサービスの入り口を一本化してストレスなく行き来できるプラットフォームを構築した。
構想から1年半に及ぶ大規模なプロジェクトを主導したのは、CCCグループのネットメディア事業を統括するT-MEDIAホールディングスであり、サイト制作・運用や編集・データベース構築などを担当したのが同じくグループのアイ・エム・ジェイ(IMJ)。両社の社長を兼務する櫻井氏は企画からローンチまでの過程をリードしてきた。
代官山蔦屋書店を中心にカフェやコンビニ、クリニックなどを備えた最先端の情報発信基地「代官山T-SITE」(東京都渋谷区)の世界観をオンライン上に実現したものがT-SITEだ。「書籍や映像・音楽といった我々の得意分野のサービス展開から始め、ライフスタイル全般を支援する新サービスを投入する」考えで、コンセプトに共感する他社とも協業していく。ベンチャー企業と共同でサービス展開するプログラム「T-VENTURE PROGRAM」も用意しており、「ユーザー・提携企業・CCCグループの全員にメリットがある“三方良し”のサービス展開ができる相手であれば誰でも歓迎したい」。
肝となるのは「独自のロジック」だ。本人も気づいていない“好きなもの”を個人の属性から抽出、偶発的な出合いを設定し、ユーザー自身が新しい発見を体験できる仕組み。「映像・音楽・書籍といったエンターテインメントはユーザーの趣味・嗜好を明確に表すので的確な情報提供などのリコメンドができる。顧客満足を得るとともにパートナー企業にもメリットを享受してもらいたい」。
10月22日に開催された「T-SITE」の記者発表会。女優・エッセイストの本上まなみさんがスペシャルゲストで登場。
24時間365日のサポートでユーザー数と客単価の拡大に挑む
ネット上に存在する膨大なデータを価値として提供するには切り口がポイントになる。独自の価値観で情報を選び、発信していくために編集部を設置した。オリジナル記事の配信や社外から提供されるニュース記事の運用など、様々なことに挑戦しながらノウハウを蓄積していく。
収益源はオンラインショッピングやTSUTAYA DISCASといった従来のサービスをさらに強化するほか、「レコメンドから様々なパートナー企業の商材やサービスにランディングすれば多様なマネタイズ手法をつくることができる」と考えている。また、ネイティブアドを含め広告領域での新たなチャレンジも検討している。目指すのは「ユーザーを24時間365日サポートすること」。朝はT-SITEが提供した音楽で目覚め、通勤途中はT-SITEで情報収集、余暇はT-SITEで映像や読書を楽しむ。「寝ても覚めてもT-SITEがユーザーのライフスタイルを豊かにする」を実現するイメージを描いている。「そうなれば1人当たりの収益は上がりユーザー数も増加していくはず」。直近のゴールは「ネット上のアクティブユーザー数を増やし、リアル店舗と同等に活気あるレベルに持っていくこと」だ。
5000万人のT会員の構成は20代約70%、30代約60%、40代約55%と若年層を中心とするピラミッド型だ。「オンライン上のユーザー行動をウオッチすることで、広告界にも有用なデータが提供できるかも知れない」。
強固なパートナーシップがパフォーマンスを高める
T-SITEの制作・運営サイドとしてIMJでは、「総勢100人を超える人員が関わり、約1年半を費やしてきた」。大々的なプロジェクトを成し遂げる上で最も重要だったのは「経営側が決めた方向性から絶対にぶれずに実行し続けること」。「複数サービスを一本化することがユーザー価値だと頭では理解できても、いざ実行となると、様々な障壁を考え、現場ではネガティブな反応が巻き起きるもの。時には強いリーダーシップで引っ張ることも必要だ」。
組織を改編して新しい仕組みを作るような場合には「今回のように発注サイドと受注サイドが連携した混成チームを作り、同じ目標に向かって一緒に考えながら進めることが望ましい」。だが、「日本は社内データを外部に見せるのを嫌がったりプロパー社員と外注メンバーの扱いに差をつけたりする傾向がある」。IMJが受注した案件にも「我々のチームが先方に入りこみ連携を強化していればもっとうまく回っただろうと思うプロジェクトがたくさんあった」という。「IMJが恵まれているのはT-SITEのような膨大なユーザーを抱えるBtoCのプラットフォームで施策の効果を検証して、効果があったものを顧客に提案できることだ。データを含めて我々にすべて預けていただければ確実にパフォーマンスを上げる仕組みを提案できると思う」。
オムニチャネルは近年盛んに話題に上るテーマの一つだが、実際には効果を出せずにいる企業も多い。「成功させるためには、ステップを踏むことが大事。“最先端の取り組み=最適”ではないことを念頭に、自らが持つ価値とユーザーとの接点を整理して、リアルとネットの世界観を統一する。そうすればユーザーが迷うことはない。ストーリーを描いて進めていくことが重要だ」。
T-MEDIAホールディングス/IMJグループ 代表取締役社長兼CEO 櫻井 徹 氏