観光学の理論の体系化
日本マーケティング学会の活動の中心となっているテーマを絞った研究会「リサーチプロジェクト」。昨年度まで8テーマで研究活動が続けられてきたが、今年の4月より「エフェクチュエーション」「顧客価値創造型営業戦略」「質的リサーチ」「流通における知識共有問題」「ユーザー・イノベーション」「ソロモン流消費者行動分析」の6テーマで新しいプロジェクトが順次スタートしている。
本稿ではこれまでに「価値創造型マーケティング」「クリエイティブ産業とイノベーション」「ソーシャル・ビジネス」「医療マーケティング」の4プロジェクトを取り上げてきた。今回は観光・地域マーケティング研究会に焦点をあてる。
このプロジェクトは、近畿大学の高橋一夫教授をリーダーに、一橋大学の古川一郎教授、流通科学大学の柏木千春教授、JTB総合研究所の小里貴宏事業部長、JTBグローバルマーケティング&トラベルの小林裕和部長、JTBコーポレートセールスの家長千恵子マネージャーの6名が企画運営メンバーとなり、これまで6回にわたって研究報告会を実施してきた。
第1回目の研究報告会は2012年12月14日、M&Mサービス代表取締役の増田成樹氏を講師に招いて「観光分野における資産活用型ビジネスへの取り組み」をテーマに議論が行われた。もともと企業の保養所のメンテナンスや建設に携わっていた同社が、新たなモデルを構築しながら、全国各地からの運営受託事業により大きく社業を伸ばした経緯が報告された。
第2回目の研究報告会は2013年1月22日、講師に大丸松坂屋百貨店の松矢康彦部長を招いて「大丸の訪日客誘致の取り組み」をテーマに開催された。大丸百貨店では、金額ベースで20億円、全売り上げの3%を訪日外国人客に頼っている。全国の店舗の中で特に心斎橋店の売り上げが群を抜いて高いが、これを支えるための認知度の向上の取り組み、限られた時間の中で効率よく買い物ができるようにという視点から店舗・サービス・MDの魅力アップにつなげた取り組みなどが報告された。
続く第3回目の研究報告会は2013年3月1日に開催。熊本県 東京事務所長の佐伯和典氏を講師に「売るキャラ、くまモンの戦略-大阪でのブレイクから今まで-」と題して行われた。くまモン誕生の経緯を紹介し、最初はJR西日本との全面的なタイアップのもと大阪を中心にしたプロモーションが開始されたこと、駅貼り広告、車内中吊りなどの交通広告を展開し成功を収めたことなどが報告された。佐伯氏は大阪でブレイクした理由について、パブリシティは通常東京で行うが、大阪からと逆張りをしたことがノリの良い大阪のマスコミに合ったようだとの見方を示した。
第4回目は講師を2人招いて6月21日に実施した。一人目がワインクラスター北海道 代表理事の阿部眞久氏で、テーマは「北海道におけるワインツーリズムの取り組み」。二人目が観光販売システムズ 代表取締役社長の小高直弘氏で、テーマは「地域の観光商品発掘と流通への貢献」 であった。
さらに第5回目は8月16日にFounding Base 共同代表の林賢司氏(「自治体インターンシップによるまちづくり」)と川崎市観光協会 観光推進部長の亀山安之氏(「川崎市/夜景ツアーへの取り組み」)、第6回目は2014年2月27日にYOKAROバス 前代表取締役の早田圭介氏(「観光インフラとしてのバス事業戦略」)とNPO法人「てほへ」副理事長の大脇聡氏(「Iターンによるまちづくり/総務大臣賞を受賞した取り組み」)と回を重ねてきた。
これまで観光を議論の対象としてきた研究分野は、経営学、商学、経済学、地理学、社会学、心理学、土木国学、都市工学、建築学と多岐にわたるが、本研究会では、経営学と商学の融合をはかる一方、観光学の理論の体系化を目指している。また政策提言などにもつなげていきたいと考えている。
文/日本マーケティング学会事務局