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Twitterが全面協力の『白ゆき姫殺人事件』、監督が語る映画PRのツボ

中村義洋(映画監督)

Twitterが全面協力したという映画『白ゆき姫殺人事件』。SNSやテレビ番組で切り取られた情報の“浅はかさ”を、中村義洋監督がユーモアたっぷりに描き出している。

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映画監督 中村義洋さん(なかむら・よしひろ)
茨城県出身。大学在学中にぴあフィルムフェスティバル準グランプリを受賞。崔洋一監督、伊丹十三監督らの助監督を経て、『ローカルニュース』(99)で劇場映画デビュー。『仄暗い水の底から』(01)、『刑務所の中』(02)、『クイール』(03)で脚本参加する一方、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)のヒットで注目を浴びる。その後も『チーム・バチスタの栄光』『ジャージの二人』(08)、『フィッシュストーリー』『ジェネラル・ルージュの凱旋』(09)、『ゴールデンスランバー』『ちょんまげぷりん』(10)、『映画 怪物くん』(11)、『ポテチ』(12)、『みなさん、さようなら』『奇跡のリンゴ』(13)など発表。その力強い演出と人間を見据える眼差しは高く評価されている。

ツイッターの炎上の裏にあるもの

『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』といった伊坂幸太郎作品のほか、『チーム・バチスタの栄光』『奇跡のリンゴ』などの映画化を手掛けてきた映画監督の中村義洋さん。3月29日公開の『白ゆき姫殺人事件』は、『告白』などで知られる湊かなえ原作の映画化である。

タイトルからはおどろおどろしいサスペンスという印象を受けるが、宣材物には「女同士の『噂』が暴走する─ゴシップ・エンターテインメント」とうたわれている。ある殺人事件を通して、ワイドショー番組やSNSの噂が暴走する怖さ、ツイッターの「炎上」の裏にある人間の欲望や自己愛、嫉妬といった感情を重層的に描いている。

注目すべきは、Twitter社が本作の制作に全面協力しているという点である。綾野剛が演じる情報番組のディレクター、赤星雄治はいわば「ツイッター中毒」の若者。取材で知りえた情報を自身の匿名アカウントのツイッターに垂れ流し、ある殺人事件にまつわる噂を増幅させていく。映画の全編にわたり、匿名アカウントによる多数のツイートが画面に現れては消えていく演出は見どころのひとつとなっている。

「ここ何年か、アルバイト先で目撃したタレントのこととか、職務上バラしちゃいけない機密事項をツイートして炎上している人が何人もいますよね。匿名であってもすぐに実名を突き止められて、社会的に抹殺されてしまうかもしれないというリスクがあるのに。結局、リスクよりも自己顕示欲が勝ってしまうんですよ。人間の“自分大好き”という感情が暴走すると何が起きるか、綾野さんが演じる赤星を通じて体感してもらえれば」。

物語は、地方の化粧品メーカーで働く美人OL・三木典子(菜々緒)が何者かに殺され、会社の同期で地味な存在の城野美姫(井上真央)が行方をくらませるエピソードから始まる。赤星は美姫に関する同僚の証言、美姫の学生時代の友人や近所の住民の声を集めながら、自身のツイッターでその断片を発信。「今、この事件の核心に近づいているのは、世界中で、俺、一人!」とつぶやき、タイムライン上で注目を集める快感におぼれる。

中村監督自身はツイッターのアカウントは持っていないという。「ただ一度だけ、数年前に期間限定でブログを書く機会があって。そのときにすごく頑張っちゃった自分がいたんですよ(笑)。ある映画の撮影期間中で、疲れて帰ってきても毎日2時間くらいかけて書いてた。そうすると、ブログの中で自分の仕事が完結しちゃうんですね。さも素晴らしい仕事をやりきったように、自分で自分を称えて満足してしまうというか。それって映画をつくる立場の人間として、怖いことだなと。大体、そういう“自分大好き”な文章って何も伝わらないし、第三者から見て全然面白くないですからね。ツイッターも同じだと思いますよ」

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『白ゆき姫殺人事件』2014年3月29日全国公開 ©2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 ©湊かなえ/集英社
監督:中村義洋/脚本:林 民夫/音楽:安川午朗/原作:湊かなえ「白ゆき姫殺人事件」(集英社文庫刊)出演:井上真央、綾野剛/企画・配給:松竹/制作プロダクション:松竹撮影所

話を「盛って」しまう人間の性

美姫を取り巻く人々の証言に見る“滑稽さ”も観る者を引きつける。同じエピソードを複数の証言者の視点から再現するシーンが度々出てくるが、まったく同じようには描かれてはいない。各人のちょっとした思い違いが誤解を生んでいたり、証言者の都合の良いように記憶がねじ曲げられていたり、単なる妄想であったり。「真実」としてメディアやSNSで語られてきた事象に様々なバイアスがかかっていたのだと紐解かれていく描写はユーモアにあふれ、本作の試写会場では一斉に笑いが起きていた。

中村監督は、そんな人間の姿をリアルに撮るための演出にこだわった。「美姫の高校時代の同級生や実家の近所の住民が、美姫についてワイドショー番組で証言する場面があるんです。ここでは役者の皆さんに話してほしい事実だけを伝えておいて、台詞は決めなかった。撮影時には僕がカメラの横からインタビュアー役として話をふっていったんですが、こういう場面でどんどん話を“盛って”しまうところに人間のリアリティがあるだろうな、と」。

さらに赤星は、その“盛られた”証言のうち核心ではないだろう部分を切り取って、面白おかしく編集してしまう。「報道番組の巧妙な再現VTRやナレーションは、インターネットがない時代からありましたよね。そういう事件報道を観るたびに、“この事件の裏には、報じられない何かがある”、“もしかしたら事件のきっかけは大げさな愛憎劇じゃなくて、笑っちゃうくらい些細なことだったんじゃないか”と感じていて。こういう事件の裏にある事実や感情を伝えるような映画をつくりたいと、10年以上前から考えていたんですね。そこで2012年に出会ったのが、湊かなえさんの原作だった」。

湊さんは映画化にあたり、こんなコメントを寄せている。「愚かな人たちを愛おしさを感じるほどに昇華させた先に『おもしろい物語』が待っているのだと、この映画を通じて知ることができました」。本作の面白さは犯人を解き明かすだけでなく、むき出しになった人間の愚かさを感じ取り、そして自分の中にもそういう愚かな部分が少なからず存在しているのではないか、と気付かされる点にあるのかもしれない。

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3月10日に大阪・中之島で『白ゆき姫殺人事件』特別列車をお披露目。井上真央さんとともに中村監督も出席。

監督の一言が記事の見出しに!

3月10日、京阪中之島駅(大阪市)で本作の試写会場に向かう特別電車を走らせるプレスイベントが開かれ、主演の井上真央さんとともに中村監督は報道陣の前に姿を見せた。

中村さんが監督としてプロモーションに関わる際の信条は、「映画の良し悪し以前に、その映画の存在を知ってもらうことが第一優先」というもの。これまで多数の作品を世に送り出す中で、「メディアで発信されるのは映画のストーリーそのもの以上に、認知の“タネ”となる引っ掛かりがあるか否かが重要」と気付いたのだという。

そんな中村監督のプロモーション時のパフォーマンスはサービス精神旺盛で、エピソードに事欠かない。

2008年2月公開の『チーム・バチスタの栄光』(竹内結子、阿部寛主演)では、『デスノート』のスピンオフ作品『L change the WorLd』(松山ケンイチ主演、中田秀夫監督)と封切りが重なった。そこでいかに『バチスタ』にも注目を集めるか考えた結果、中村監督は自ら舞台挨拶の壇上で、マスコミを前に「バチスタ change the WorLd!」というフレーズを放ったのだ。

すると翌日のメディアでは「バチスタもスピンオフ作品決定か」「バチスタメンバー、松山ケンイチに対抗心!?」といった見出しの記事が次々と掲載され、スタッフや関係者も監督の機転に感激。「初週の結果は負けましたけどね。中田秀夫監督も昔からの知り合いなので大目に見てくれるだろう、と(笑)」。

2013年1月に公開された『みなさん、さようなら』(濱田岳主演)のプロモーションも、監督の機転と俳優のキャラクターに助けられたエピソードがある。同作は全国で40カ所程度の上映館数、出演も若手俳優が中心のため、メディアに大きく取り上げてもらうにはハードルが高い作品だった。その中で中村監督が着目したのが、主演の濱田岳を徹底的に「いじる」作戦だった。

「濱田岳が共演の倉科カナちゃん、波瑠ちゃんの胸を触るシーンがあるんです。その話を完成披露試写会で持ち出して、『衝動的な揉み方だった』と僕がけしかけて(笑)。すると濱田君が『台本に書いてあるからやったんです!!』とムキになって応じてくれた。その様子がおかしかったんでしょうね、このやりとりのおかげで結構記事を書いてもらえました。その後の各地の舞台挨拶でも胸の話ばかり質問されて、彼は大変そうでしたけど(笑)」。ちなみに濱田さんとのタッグは同作で5作目。役者との仲の良さも垣間見えるエピソードである。

そんな中村監督、実はテレビCMなど広告の仕事はこれまで経験がない。PR視点を持ちあわせた監督だけに、広告の仕事への興味というのは気になるところである。「広告のお仕事のオファーは、いただいたことがないんですよ。今回、『宣伝会議』という雑誌も初めて知りました。ええ、お仕事はいただけるならもちろん撮りますよ!あ、出演の依頼も大歓迎です。そうだな、僕が出るなら...ビールのCMがいいですね。どうぞよろしくお願いします(笑)」。

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ツイッターで作品の評判をチェックすることも。「僕の作品は原作ものが多いので、原作ファンに叩かれて腹を立てたりね(笑)。匿名でつぶやく彼らは自分の目の前5センチくらいしか見えてないんだな、と。そういう思いを、本作のラストシーンにも込めました」。

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