コミュニケーションの相手は、いつだって「人」。アンドロイドを通じて「人間らしさ」を追求する大阪大学の石黒浩教授と、アーティストとのコラボレーションを積極的に手がける電通の大岩直人さんが、科学と広告とアートの視点から、「人」について語る。

大岩直人氏(おおいわ・なおと)(左)、石黒 浩氏(いしぐろ・ひろし)(右)
アンドロイドの人間らしさの源は
大岩直人▶ 元々、石黒さんがアンドロイドを通じて「人間らしさとは何か」を研究していると見聞きしていて、ファンだったんです。それで、オーストリアのリンツ大聖堂で人間の女優とアンドロイドとを交えた演劇を上演するというので見に行きました。人間らしく振る舞うアンドロイドを目の当たりにして、人間対人間のコミュニケーションに対する考えが揺らいだ。その時、「絶対に石黒先生と仕事がしたい!」って思ったんです。
石黒浩▶ 演劇では、平田オリザ先生とサルトルの「出口なし」にも挑戦しようとしたのです。男1人女2人の密室劇で、コミュニケーションがテーマとも言える。人間が自分を認識するには他人を介さねばならないのに、相手が自分のことをどう思っているのかは絶対にわからない。アンドロイドにはそんな苦悩はありませんが、それを演じさせることで、人間くさく見えるんじゃないかと考えた。事情があって,できなくなってしまいましたが。
大岩▶ 見たかった......。何か2つの要素が備わると、アンドロイドが「人間らしく」見えるそうですね。
石黒▶ 一番影響するのは声ですが、他にも見かけや匂いや触感なども含め、どれか2つが備わっていると、人間が存在するように感じられる。人間にとって最も重要かつ根源的な能力は、人間を認識することだからです。生まれたばかりの赤ちゃんは、自分の母親を見つけ、認識する力がなければ生きていけませんから。
大岩▶ 石黒さんの研究過程で生まれた「ハグビー」というプロダクトを試させてもらったんです。これは、人型のクッションに携帯電話を入れて抱きしめながら話すんですが、本当に人間の存在を感じて安らぐんですよ。
石黒▶ 実際に、人を抱きしめているのと同様に、ストレスホルモンが下がるというデータが出ています。先ほどの要素でいうと、「声」と「触感」があるから人間の存在を感じてしまう、ということです。

アンドロイド演劇「さようなら」から。
©Tatsuo Nambu/大阪大学・青年団・ATR石黒浩特別研究室

抱き枕型通信メディア「ハグビー」。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所が開発した。
人間は想像して信じる生き物
大岩▶ 大阪大学の研究室に伺って、生きている人間そっくりに精巧に作られた「ジェミノイド」も見せてもらいました。研究室で驚いたのは、「ジェミノイド」が、こちらに目線を合わせてくれること。「ああ、これはスゴイな、何か特殊なセンサーで感知しているんですか?」と尋ねたら、「そんなことはしていない」と。
石黒▶ 適当に動かしているだけなんですよ。極端に言うと、人間は想像して信じる生き物なんです。しかも基本的にポジティブに想像する。例えば、ふと目が合った女性が「自分に好意を抱いているんじゃないか」と思ってしまった経験のある男性は少なくないと思います。悲しいかな、相手は何も考えていないわけですが。アンドロイドも同じで、ランダムに動かしているだけでも、「意識を持っているんじゃないか」と、こちらが勝手に解釈してしまうわけです。