「お金に対するリテラシーとセンスがない」と評価されがちな日本人。そんな消費者のインサイトを動かす広告表現のポイントを探ってみよう。
フレーミング理論を広告に活用
金融業界のコミュニケーションに長く携わっていると、その面白さと特異性にハマってしまう。そこはまさに「お金と心理」の実験劇場である。お金はカタチのないものだから、と言われれば確かにそうであるが、それ以上に、やはり商品が「お金」といういわゆる"価値の尺度"そのものだからである。
「お金」は時に嬉しい存在、時に憧れで、時に安心の証である。が、場合によっては不安の素だったり、また恐ろしい顔を見せたりすることもある。お金と向き合う人々の心の在り様は様々で、その人の置かれた状態や気分でとらえ方(価値)も大きく変わる。
大和証券が以前、「お金と心理」にまつわる非常に興味深いテレビCMを流したことがある。場面は、とある海外の小さな理髪店で、どうやらその日は給料日という設定。ストーリーはこうである。店の主人が従業員の若者に「この給料の2割を貯金するように」と言うと、青年は「無理だ!」と答える。しかし主人が、「じゃあ、この給料の8割で暮らしてごらん」と言い換えてみると、なぜか若者は「やってみる」と答えたのである。テロップで「人は思い込みにより、事実を正確に捉えていないことがある ~フレーミング理論より~」と続く。
「フレーミング理論~思い込み 床屋」編と銘打った8年ほど前のCMであるが、憶えておいでの方も多いだろう。ここで出てくる「フレーミング理論」は、フレーム(視点や基準)を変えることで違った印象や判断に導かれるというもので、いわゆる「心理的バイアス」である。
実は、金融においてはコミュニケーション上、よく使われる手法である。
一つ例を出そう。ある地方銀行の新聞広告で、それまで貸付上限100万円をアピールしてきた個人ローン商品を、「1000円から」という下限の借入額にフォーカスしたことで新規申し込みが3倍近くに増えたことがある。まったく同じ商品であるにもかかわらず、である。