2020年に開催される東京オリンピックを前に、世界で急速に広がる日本食ブームは日本の食産業にとってまたとないチャンスだ。日本食の安心・安全、おいしさ、質の高さを海外に伝えるためのマーケティング戦略について、食のマーケティングコンサルタントの草場佳朗氏に聞いた。
日本食を世界に広め、より身近にした世界でも有名な日本人シェフの一人であるノブ・マツヒサ氏が手がけた料理。左からこはだ寿司、竹崎がに(ワタリガニ)、太良ミカンのデザート。
フランスワインを支える周到な国家戦略
日本の食文化や食材を海外にPRする際、参考になる成功事例がフランスワインである。2010年のフランスのワイン輸出金額は約8,500億円。一方、2012年の日本酒輸出金額は89億円。近年、日本酒の輸出金額が高い伸び率を示しているにも関わらず、依然100倍近くの差が存在する背景には、次のようなフランスの周到な国家戦略が存在する。
第1は原産地呼称制度。フランスが法律として制定したもので、ワイン用のブドウの産地をその品質により畑の格付けを行うものだ。これは、客観的な評価制度によりワインのグレードや価格設定を明確にした「ブドウ畑ランキング制度」である。
第2はソムリエ制度。フランスではソムリエは国家資格。ワインの価値を丁寧に消費者に説明するために料理とのマリアージュという観点で情報提供する。ワインのプロ(人)によるメディア戦略であり、その魅力を世界中で発信する「アナログ版ツイッター」だ。
第3はワイングラス。ワインの美味しさや香りなど、個性を最大限に引き出すために不可欠な道具である。さらに、機能美を兼ね備えたデザインは世界の美食家たちを惹きつける魅力を持つ。ワイングラスはワインの価値を最大化するためのインフラである。この様に、フランスワインは周到なブランド戦略によって支えられており、輸出金額に100倍の差が生じる大きな要因である。フランスは農産物の輸出に関して、ナショナルチームによる「オリンピック」を戦っているが、わが国の場合、農産物や日本酒は企業や地域による「国内大会」に専念しグローバルに戦うための戦略に欠けている。
その結果、2010年のG7各国における農産物輸出金額は、フランス6兆909億円、イタリア3兆6,799億円、米国11兆8,116億円、英国2兆4,410億円、ドイツ6兆6,948億円、カナダ3兆3,793億円であるが、先進7ヵ国で唯一日本だけが5,506億円(2013年速報値)という規模に甘んじている。日本以外の先進国において、農業は国家の基幹産業である。なぜなら「食糧安全保障」という国家の重要政策にも直結しているからだ。