「技術によって可能になったこと」がキーワードとして独り歩きするケースが増えているマーケティング領域。ここでは、広告会社、広告主、研究者の三者が結集。共通していたのは、「2014年は、企業がトレンドを自社の事業に組み込んでいく『統合期』となっていくのでは?」との見方でした。

左から、博報堂 安藤元博 、青山学院大学 芳賀康浩、ソニー銀行 河原塚徹
河原塚▶ 最近はとにかく、"とんでもないところから弾が飛んでくる"時代になったなと感じます。書籍や食品を売っていたEC事業者がハードウェアを作って販売したり、オンライン学習サービス企業を買収したり、通話アプリの会社がWEBストアを開設したり...。今までは「この業種はこのレイヤー」という具合に、それぞれのカバー領域がある程度決まっていたと思うのですが。
安藤▶ デジタル環境の進展がその要因になっているわけですが、そのポイントはどんな部門でどんな仕事をしていても、顧客・生活者の姿や行動が見えるようになってきたことにあります。そこから定量・定性的に得られる情報が全社的にオープンになり、互いにつながっていく。あるいはつなげることの意味が明らかになってきた。これまでは営業部や各事業部、広告宣伝部が自分の部署だけで抱えていた情報を、どのようにつなげて活用できるのかにフォーカスが当たってきました。少し飛躍しますが、DMP(注1)に関する議論も同様で、日々の活動で生成していくデータをいかに領域や持ち場に捉われずに統合的に活用するかが、マーケティングにおいてますます重要なテーマになっていくはずです。
河原塚▶ 最近"流行っている"言葉といえば、やはり「イノベーション(注2)」ですよね。従来の「技術による革新」の意味合いからどんどん変化して、今では「さまざまな領域で起こり得る革新」としての「イノベーション」が共有されつつあります。革新の切り口の一つが、お客さまとのやり取り。そこで得られた情報をもとにイノベーションを起こすことが、大きな潮流になっていると感じます。
芳賀▶ 日本では実際にたくさんのイノベーションが起きていますよね。2012年に早稲田大学の恩藏直人教授とエネルギー問題の研究をしたのですが、海洋発電や木質バイオマスなど、思いもよらない発電技術がたくさんありました。ただ問題なのは、技術はあるけれども、需要が追いついていないということ。そこである企業では「需要づくりから始める」という方針を打ち出しました。まずは林業に従事する方などを対象に、山間部の暖房や給湯に新技術を使ってみようと。しかし、たとえば地熱発電を普及させようとしても、「温泉が涸れるのでは?」といったネガティブな印象が先行し、なかなか普及しない。実際には非常に低い温度でも発電できる技術などができているのに、もったいないわけです。ここではソーシャルの「知らせる機能」を使いながらマーケティングを動かしていくことが大切なんだなと思いましたね。イノベーションとソーシャルは両輪のような関係にあると思います。