「びっくり!」で終わらない、サプライズ施策をいかにつくるか。ここでは、「ストーリー」を軸に企画され、成果をあげた国内事例を振り返るとともに、戦略PRの視点から成功の方程式を探る。
膨大な情報が溢れるこのソーシャルメディア時代に、生活者に振り向いてもらうことは難しい。そこでいろんな仕掛けが考案される。サプライズ施策もそのうちのひとつと言えよう。私が扱う「戦略PR」の世界でも、我々が発信する情報に対して、消費者に前向きに捉えてもらえるよう情報加工を施す。いかにその情報を“他人ゴト”でなく“自分ゴト化”してもらえるかが重要なのだ。ただし、何らかのプロモーションである以上、「びっくり!」で終わってしまっては意味がない。そのアテンションから、どう関心を持続させ、生活者の意識変化・態度変容に落とし込むかが重要になる。そのために必須となるのが「ストーリー」だ。
では「ストーリー」とは何だろうか。先にその定義をしておきたい。これまでの情報発信は、製品・サービスのUSP(ユニーク・セールス・ポイント)に基づく差別化要素を「ファクト」として提示することから始まり、その後、よりセグメントされたターゲット別のベネフィットをそこに見つけ出し、フィーチャーする形、すなわち「コンテンツ」として加工して訴求する段階へと移行した。さらにそれを受け入れやすいように、そのベネフィットがより活きるターゲット周辺の社会環境や背景情報と結びつけて語りかける、いわゆる「ストーリー」としての情報構築を目指すようになっている(上の図を参照)。これにより生活者の納得・共感を創り出し、“自分ゴト化”を高めることで、企業と生活者のエンゲージメントが生まれるのだ。これらの生活者は、今度は企業に成り代わってその情報を人に伝えてくれる、すなわちストーリーテラーに生まれ変わる。このようなコアファン、ロイヤル・ユーザーをいかに今後、獲得・育成・維持していけるかが、企業にとって重要な時代になっていると言えよう。その意味で、我々も単に生活者を振り向かせるだけのサプライズを創出するだけでは用をなさない。つまり、「この企業がこういう企業ビジョンのもと、こうしたことをしているのだな」と、「驚き」と共に「納得」してもらえる「ストーリー」を考えねばならないのである。
しかし、「ストーリー」はフィクションではない。「PRはファクトありき」と言われるのと同様、イメージだけでない、しっかりとした背景情報が必要だ。「ストーリー」とはフィクションとしての物語を仕立てることではなく、「人に語りやすい前後文脈の付随した情報」として手厚く整備したものと捉えたい。不自然に作り込んだストーリーは生活者目線で自然淘汰されていくので、ここは誤解したくないところだ。