デジタルチケットの「moggy(モギー)」
「いまネットの世界で起きていること」というテーマで私、吉羽一高が気になるネットの中のトレンドやサービスについてお話させていただきます。とは言え、気が多い性格なので多くのモノが気になっていますが、今回は、「デジタル→イベント」ということにテーマを置いて進めていきたいと思います。
今年、注目のワードとして挙げられることの多いO2O(Online to Offlineまたは、Offline to Online)も「デジタル→イベント」に関連する領域と考えています。O2Oという言葉の概念が曖昧であるために、クーポンや位置情報ゲームなどもO2Oとして語られている場合がありますが、私はOfflineとOnlineの行動を繋げてトラッキングできる一連のマーケティング施策・サービスがO2Oの本質であると考えています。
開催に必要な要素を全網羅
O2O領域のサービスとして取り上げられることの多いものではありますが、「デジタル→イベント」のひとつめの例が「オンラインのイベント作成・事前集金サービス」です。
「オンラインのイベント作成・事前集金サービス」としては、一般ユーザーによる利用だけでなく、「ad:tech tokyo」などの大規模イベントなどでも利用されている「イベレジ(イベントレジスト)」が代表的なもののひとつで、ここではイベレジを題材にして、少し話をしていきます。
「イベレジ」では、イベント主催者が簡単にイベントページを作成することができるのはあたりまえで、特に優れている点は、告知→集客→申込受付(事前集金)→参加者管理→来場者トラッキング→参加者フォローというイベント開催・運営に必要な要素がこのひとつのサービス内で完結されているところにあります。
別のトピックスになりますが、多くの企業がTwitterやFacebookなどのアカウントを開設しつつも、どういった情報を告知すれば良いか、SNSアカウントの運用スタッフの方々がアタマを悩ませている様子を多く目にします。
企業では、大小様々なセミナーや講義などを実施していながらも、その告知はローカルメディアに限られていたり、公開セミナーであっても、告知が一部の関係者に限られていたりして、結局、来場者の入りが少ないなどの問題がありますが、そういった場合に、「イベレジ」のようなオンラインでのイベント作成・事前集金サービスを利用するのはひとつの選択肢になります。サービスのソーシャル拡散機能などを使い、セミナー開催情報などに興味を持ってくれている潜在顧客に情報として届けるアクションプランを組み込んでしまえば、イベントの集客に寄与するだけでなく、SNSアカウント運用の際のひとつのコンテンツとして、多くの企業で利用できるのではないでしょうか。
進化するデジタルチケット
この「オンラインのイベント作成・事前集金サービス」と密接に関連しつつ、注目されている領域のひとつに「デジタルチケット」があります。チケットの販売においては、いくらで売り出せば売上・利益が最大化するか事前に予想してチケットのプライシングを決めることになるので、どうしても売れ残りや安い価格で売ってしまうということが起き、収益最大化が難しい状況にありました。
インターネットチケット販売の「チケットスター」では、楽天と連動しているメリットを活用しながら、通常では変更しにくいチケットの定価をオークション形式で販売することによって定価以上の価格での販売を行う仕組みや少し売れ残りが多い場合に、チケットの希少性を損ねないようにクローズド市場で販売するなどの仕組みを提供して、興行主のチケット販売に貢献しています。
チケット販売ということで何かの施策を考えているのであれば、「チケットスター」などの新しいチケット販売サービスに目を向けてみるのもひとつかもしれません。
ビッグプラットフォーマーも注目これまでのデジタルチケットの概念とは、デジタルで買う=インターネットでチケットを購入して紙のチケットが送られてくる(コンビニで引き出す)というものから、チケットの役割を担ったチケット番号が記載されたe-mailが届く、またはQRコードというものでしたが、最近は、それよりも進んでいて、チケット自体がデジタルになってきています。
ビッグプラットフォーマーであるアップルも「Passbook」というiPhoneなどに標準搭載されている(かつ削除できない)クーポン・チケット(アップルとしてはPASS:パスという言葉でまとめて定義している)まとめアプリを提供して、この領域に参入してきています。
iOS6.0(iPhone5リリースの際のOS)のタイミングでは、単なるQRコードでの管理で、チケットの利用管理自体では特に目新しいものではなかったPassbookでしたが、iOS7.0(iPhone5s/5c相当)のリリースから、同一Wi-Fi上に管理者がいれば、カメラアプリ(QRコード読み取りアプリ)で読み取らなくても、利用確認を行うことができる仕様へと変更がされています。
正直なところ、アップルが標準提供しているアプリとしては、利用状況から見て、少なくとも日本で成功しているとは言えない状況ですが、アップルがこの領域に標準アプリとして組み込んででも取りに行こうとしていることからも「デジタルチケット」領域の将来的な影響力は大きくなっていくものと確信しています。
紙のようにモギれる
この「デジタルチケット」の領域において、紙のチケットと同じような操作感を持ちながら、デジタルの優位性も上手に取り込んだ新しいデジタルチケットが登場し始めています。
そのひとつが、「モギー(moggy)」です。「モギー」のアプリをダウンロードして使ってみると理解し易いのですが、「モギー」は、指でちぎれるデジタルチケットで、スマートフォン上に表示される紙のチケットと同様のチケットを指でモギれば、同時にインターネットを通じて、チケットの管理者に通知がされるというものになります。デジタルでチケットが管理されているので、チケットの利用有無が、現場の管理者による目の確認だけでなく、管理画面の前にいるイベント管理者がリアルタイムで確認できる仕組みになっています。
イベントのチケットだけでなく、飲食店のチケットや商品販売の引換券などの利用も進んでいるので、今すぐにでも活用できる企業の裾野は広がっています。
これまでのQRコードによる管理では、難しかった不正利用の防止(セッション毎にQRコードが吐き出される仕組みもあるが基本的にコピーが容易)や、インターネットが使えない環境下におけるチケット管理(入場管理)などの問題を解決しているサービスなので、モギーのようなサービスが一般化すればデジタルチケット領域は更に新しいビジネスが生まれることになると思っています。
イベント型のサービス
「デジタル→イベント」というテーマのお話をさせていただいていますが、デジタルの中だけで完結するイベント型のサービスも今後、活用を検討しても良いサービスのひとつかもしれません。そのひとつが、 「Kolor(カラー)」などに代表されるミッション系と呼ばれるサービスです。「Kolor」では、様々な企業からミッションが出されて、それをクリアすることでご褒美(ポイント)がもらえるような設計がされています。
企業としては、自社の商品を広告コミュニケーション活動で伝えるのはもちろん、もう少し深く商品の機能や効用などを理解してもらいたいと思っているケースはあると思います。そういった場合に、ミッション系サービスであれば、機能や特徴、利用シーンなどを理解してもらいクイズ形式で答えさせる。どこかにチェックインさせるなどのユーザー自身にアクションを促すことができるので、より深い理解を持たせる足がかりになります。
まだまだ、リアルのイベントの域までには到達しませんが、デジタルの中でブランドや商品に触れさせるデジタルイベントの役割を担わせることができる数少ないサービスなので今後の発展に期待です。
吉羽 一高(よしば・いっこう)電通デジタル・ビジネス局 アーキテクト。複数のインターネット企業を経て現職。Google/Apple/Facebookなどのプラットフォームを活用したコミュニケーション設計/プロダクト開発などを担当。また、テレビ・新聞・雑誌などのメディアとインターネットのクロスメディア戦略やサービス開発なども手がける。スタートアップ企業の評価も行い、自らもスタートアップ企業の立ち上げに参画、サービス設計/ビジネスモデル構築などを行う。 |