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国民的名作ドラマを生んだ名コンビ、石井ふく子・橋田壽賀子

岡田芳郎

テレビが影響力のある最大のマスメディアであることに疑いの余地はない。しかし、1990年代以降のインターネットの台頭から、その王権が徐々に陰りを見せはじめているのも事実である。日本でテレビが放送された1953(昭和28)年から、ちょうど60周年の節目を迎える2013(平成25)年。草創期に活躍した先人の志と業績をたどり、原点に立ち返ることで、テレビ、そしてマスメディアの新たな可能性を探る。

民放ドラマ史上最高視聴率56.3%は現在も破られていない

石井ふく子(1926(大正15)年9月1日~)は、テレビ初期から今日までテレビドラマの大きな潮流を作ってきた日本の代表的テレビ・プロデューサーである。

TBS東芝日曜劇場は、石井の最初の仕事というべきものだ。スタートからこの番組のプロデューサーを務めていた田中亮吉が日本教育テレビ(現在のテレビ朝日)に請われて移籍することになり、急遽その後釜として第93回「橋づくし」(1958(昭和33)年9月放送)からプロデューサーとして一本立ちした。東芝日曜劇場は、名優を揃え正統派テレビドラマの確立を目指すTBSの看板番組で、家族が揃う日曜午後9時から10時までの最高の舞台で放送される。1956(昭和31)年12月2日に始まり、1993(平成5)年3月28日終了まで37年間、1877回も続く稀有の長寿番組となった。年間や半期を通じた長編ではなく、単発ドラマであるところに特色がある。石井ふく子は93回以降すべての作品をプロデュースした。数々の話題作を生んだ日曜劇場のなかでも「忍ぶ川」、「愛と死をみつめて」、「女と味噌汁」シリーズ、「二階」、「女たちの忠臣蔵」(1200回記念)、「花のこころ」(1500回記念)などの名作はテレビドラマの歴史に残るものといえる。

1961(昭和36)年1月22日放送の「忍ぶ川」は、三浦哲郎の芥川賞受賞小説のテレビドラマ化で、清新な愛の物語を大空真弓、山本勝のフレッシュなコンビがさわやかに演じた。好評のため、翌62年1月21日に「続・忍ぶ川」が、さらにその翌年の63年1月20日に「忍ぶ川 その三」が放送され、毎年新春の贈り物となった。

1964(昭和39)年4月12日、19日放送の「愛と死をみつめて」は、脚本家・橋田壽賀子の出世作ともいうべき力作である。橋田は電話帳のような分厚い脚本を石井ふく子に渡したという。石井は脚本を読み、削るのではなく2回に分けての放送を決意した。それだけ結晶した内容だったのである。橋田は、「これが放送作家としてなんとか食べていけるきっかけの作品になった。ふく子さんとの出会いがなかったら、とっくに脚本を書くことをあきらめ、他の仕事をしていたに違いない」と記している。石井ふく子と橋田壽賀子は公私ともに切っても切れぬ仲となり、橋田は、「自分の作品は(石井が担当しない作品でも)すべて石井に相談する」ほどの関係となっている。東芝日曜劇場で一番多く脚本を書いているのが橋田壽賀子である。「愛と死をみつめて」は、大きな反響を呼び、放送後1年間に4度も再放送され、日本中を感動の渦に巻き込んだ。大空真弓、山本学が熱演し、ひたむきな二人の愛の姿が視聴者を泣かせた。

「女と味噌汁」は、1965(昭和40)年6月20日放送が好評のためシリーズ化され、1980年1月6日終了まで年2~3本のペースで全38話まで制作・放送された。芸者を演じた池内淳子、その妹分役の長山藍子、女将の山岡久乃がそれぞれはまり役で人気を高めた。ちなみに68年には東宝で五所平之助監督により映画化されているが、その時も主役3人は同じ役で出演している。脚本の平岩弓枝は、この後何本も石井ふく子と組んで作品を書いている。橋田と平岩は石井が最も信頼を寄せる2人の作家なのだ。

「二階」(1977年2月6日放送)は、松本清張原作のドラマで石井の特に好きな作品の一つである。石井はサスペンスドラマを手がけないが、この作品は例外だという。十朱幸代、山口崇、渡辺美佐子三人の名演で、破滅に向かう愛憎を描き人の心情に潜むサスペンスを浮かび上がらせた。

1979(昭和54)年12月9日放送、日曜劇場1200回記念の「女たちの忠臣蔵」は、忠臣蔵の四十七士の妻や家族はどんな暮らしをしていたのだろうという疑問から発し、太平洋戦争時の銃後の妻の生活に重ね合わせ今日的意味のある作品になりうると石井は考えた。橋田壽賀子に話をすると、「女たちから見た四十七士の男たちを書いてみたい」と脚本を引き受けた。池内淳子、宇津井健、佐久間良子、杉村春子、香川京子、山村聡、渥美清、山田五十鈴はじめ数多くの俳優が出演する三時間の大作となり制作費もふくれあがったが、石井は意図したものが制作できたという。視聴率は42.6%で日曜劇場の最高記録となった。

「花のこころ」は、1985(昭和60)年10月6日放送、1500回記念のオールスター番組である。1時間ドラマ15本分の制作費をかけた超大作である。脚本・橋田壽賀子。大原麗子、石坂浩二、佐久間良子、森光子、池内淳子、岸本加世子、小林桂樹、中井貴一、中田喜子、田村高広、宇津井健、香川京子はじめ東芝日曜劇場にゆかりのある俳優、名優が勢ぞろいした。この番組も30.9%という高視聴率だった。石井ふく子は、自宅で見終わって涙があふれ止まらなかったという。彼女は自分の手がけたドラマで泣いたことはそれまで一度もなかったのである。

東芝日曜劇場とともに石井ふく子のドラマ制作の舞台は同じTBSの木曜夜20時からの1時間である。なかでも「肝っ玉かあさん」と「ありがとう」は、ホームドラマ全盛期の1960~70年代を代表する金字塔といわれる傑作である。脚本はどちらも平岩弓枝。平岩の書くせりふには人間の心のひだが表現されているという。庶民の日常がさりげない会話から浮かび上がる。

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