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泉 麻人のたのしい広告採集

近江の警察電車(滋賀県彦根市)

泉麻人

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イラスト/蛭子能収

とある仕事で米原までやってきた。米原というと、このコラムを愛読されている方はピンとくるかもしれない。以前、駅のすぐそばに見える「せんねん灸」の野立て看板について取りあげた。山の斜面に掲示された看板は健在だったが、仕事というのはもちろんそれを確認しておしまいではなく、近江鉄道に乗り継いで多賀大社の方にあるキリンビールの工場へ行かなくてはならない。

米原駅の片隅から出る近江鉄道は、いわゆる近江商人の有志が明治時代に立ち上げた、歴史の深いローカル鉄道だ。沿線には五箇荘(ごかしょう)や近江八幡、日野......古い商家の町があり、近江平野ののどかな田園風景も愉しめる。そして最近の近江鉄道は、キャラクターや広告を描いたユニークなラッピング車両が多い。「いしだみつにゃん」なんていう「ひこにゃん」の兄弟的キャラを描いた車両もあれば、キリンビールとタイアップしたビア電(生ビールが飲める特別電車)なんてのもある。

彦根で乗り合わせた単身の女性(推定年齢50代)は、そういう電車を次から次へとカメラで撮影、角度を変えて何度も撮っているところを見ると“女子鉄”いや“オバ鉄”ってところかもしれない。

そして、高宮という支線への乗継ぎ駅で、向こうのホームにまたまたおかしな電車が停まっていた。

白黒の警察車カラーに塗装されて、滋賀県警の文字がドカンと入っている。さらに、ちょっと可愛らしい婦人警官のモデル写真まで。車内の壁にもポーズをキメた婦人警官のスナップがあって、こんなコピーが付いている。「交通安全 あなたの ハートをロックオン」横を見ると、さっきのオバ鉄も"お宝発見"って顔つきでシャッターを切っていた。

しかし、滋賀県警ってのはなかなか開けた体質なのだ。とはいえ、モデルの婦人警官、笑顔の作り方が手馴れている。本当にこんなさばけた婦警さんがいるのだろうか? タクシーに乗ったとき、運転手さんに伺ってみたら、「ああ、あれは地元のAKBのコでね、2年前に交通安全ふるさと大使ってのに任命されたんだよ」と教えられた。

なるほど、調べてみると、田名部生来(たなべみく)という近江八幡出身のメンバーで、たなみんの愛称で呼ばれているらしい。それにしても、この滋賀県警の電車、先のキャッチフレーズの意図はどうもよくわからない。交通安全で、ハートをロックしてしまってはマズイのではないか?

泉 麻人

泉 麻人

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストに。東京を中心とした街歩き、現代風俗を中心に著書多数。著書に『東京考現学図鑑』(学習研究社)、『昭和切手少年』(日本郵趣出版)など。近刊は町歩きと喫茶店探訪のエッセー『東京いつもの喫茶店』(平凡社)がある。

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