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PICK UP(PR)

世界の潮流に学ぶ! ストーリーテリングがエンゲージメント構築のカギ

電通パブリックリレーションズ

カンヌライオンズ2012PR部門の審査員を務めた電通パブリックリレーションズの井口理氏が、著書「戦略PRの本質―実践のための5つの視点」を刊行する。世界の潮流を肌で感じ、日本における戦略PR、 さらにPR自体の理解・認識の違いに問題意識を抱いた著者が人を動かすストーリーを描く、戦略PRを解説する。

提唱からはや5年、でも戦略PRが浸透しない理由

日本の広告業界で「戦略PR」という言葉が使われ始めたのが2009年頃。当時メディア環境の変化、情報流通量の増大に伴い広告主から「従来型の広告が効かなくなった」という声が聞かれ始めていました。そこで戦略PRに対する期待が高まったわけですが、5年経った現在、実際に戦略PRを活用し、成果をあげている企業はどのくらいあるでしょうか。私の実感として、その数は非常に少ないと感じています。

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その背景には、そもそも戦略PRという言葉に対する誤解があったのではないか。さらにカンヌライオンズ2012のPR部門に審査員として参加し、欧米のPRの潮流を肌で感じ、そもそも日本ではPRの位置づけ、機能自体、正しい認識がなされていないのではないか。そんな問題意識を持ったのが、本書執筆のきっかけです。

私は戦略PRを「生活者に『自分ゴト化』を引き起こす『ストーリー』を構築し、広告を含む様々なコミュニケーション施策を融合させてその『ストーリー』を伝えることで、生活者の意識変化・態度変容・エンゲージメント(共感の構築・強化)を生み出す仕組み」と定義しています。しかし「戦略PR=世の中の空気をつくること」という認識が多く、「広告を打つ前に行うもの」という理解だけが独り歩きしている状況も見られます。

本来、大切なのは広告もPRも統合したコミュニケーション施策の戦略があるか否か。空気づくりと広告活動の背後に一貫した戦略がなければ、PRの効果を十分に発揮することはできません。そうした失敗を経験し「戦略PRをやってみたけど、効果がなかった」と思われた企業の方もいるのではないでしょうか。

PRは広告のオマケではない!

そもそも日本ではPRは狭義の意味である「パブリシティ(報道露出)」と捉えられており、長年"広告のオマケ"的な位置づけで見られてきました。 PRの効果測定として、露出量を広告換算する方法が一般的ですが、ここにPRが広告の代替として考えられている現状が表れています。

しかし理想的なPRのポジションとは、コーポレート・コミュニケーションの視点を付加しながら各種コミュニケーション施策を俯瞰してメッセージング・コンセプトを設定するポジションです。さらに現状の日本の戦略PRはマーケティング・コミュニケーション寄りの活動になっていますが、カンヌを通して感じた世界の潮流は、製品のポジショニングにおける差別化のみならず、企業ブランドを同時に伝え、これを生活者や社会の価値として提示し共感を得ることで、より深いエンゲージメントを構築しようとする流れです。

戦略PRを実現する 実践のための5つの視点

企業から聞こえるようになってきた「広告が効かなくなった」という声。これは単に情報をターゲットに当てるだけでは、態度変容や行動を起こしづらくなったということでもあります。そこでPRに対する期待が高まっているわけですが、それにも関わらず従来の広告の代替、リーチ発想で使っていては、本来の成果は発揮できません。カンヌのPR部門の審査では、以前から「審査の際にパブリシティ量は評価対象にしない。『意識変化』『態度変容』『エンゲージメント』の3つをキャンペーンの成果とみなす」という指針がありました。情報に触れてもらい、話題にされたその先。人の行動を促し、ビジネスの成果を出していく上で大切なのが、情報を「自分ゴト化」してもらうこと。これが、リーチを狙った広告を通じた情報発信との違いです。

広告は製品・サービスが持つ要素、ファクトを斬新なコピーや映像で伝えることで生活者のアテンションを獲得するもの。しかしファクトを伝えただけでは、生活者の共感や行動を喚起しづらくなっているのが今の時代。無機的なファクトに様々な視点を当てることで新しい価値を創出しコンテンツにする。さらに、そのコンテンツを社会環境の中に置くと、どのように受け止められるかを考え(コンテクスト)、さらに生活者のインサイトを理解し、個々のターゲットのライフスタイルや趣味嗜好にあわせて、受け手にとってベネフィットが感じられる情報の伝え方を考えて発信する...。自分ゴト化してもらうストーリーを描いていく、こうした戦略PRの考え方を組み合わせれば、広告もより効果的に活用ができるはずです。

確かにPRには不確実な要素が多いですが、メディアからメディアへどのように情報が流れるのか、情報流通構造に熟知した私たちPR会社の知識を使ってもらうと、その精度を高めることができると思います。

こうした話をすると、「うちの会社の縦割り組織では、広告とPRの連動は実現が難しそう...」という結論になりがちです。確かに我々、PRパーソンが川上から入って、ストーリー設計をすればより大きな企画が実現できますが、戦略PRのエッセンスだけでも現在のマーケティング・コミュニケーション活動に組み込んでいくことができるはずです。

今回上梓する「戦略PRの本質」では「戦略PRに必要な視点」として、①ストーリーテリングの連鎖の創出、②ニュートラルな視点でコミュニケーション手法を構築、 ③川上設計で広告とPRを連動、④コーポレート&マーケティング・コミュニケーションの融合、⑤中長期の(PR会社との)パートナーシップを掲げましたが、こうした要素を担当者レベルでも現在の企画に加え ていくことができると思います。

現在、日本で戦略PRに積極的に取り組み始めた企業は比較的広告予算の少ない、中堅規模の企業が中心で、潤沢な広告予算を持つ大企業であればあるほど、その組織の大きさゆえ、実施に尻込みする傾向があります。

戦略PRはアイデア次第で広告予算の少ない企業のマーケティング・コミュニケーションの効果を高められるのも魅力ですし、一方で大規模な予算を持つ企業が現在の広告に、戦略PRの概念を融合させることができれば、さらに大きなインパクトが見込めます。

必要なのは宣伝担当者や広告会社のクリエイターの意識の変革だけ。まずは、小さなプロジェクトからでも戦略PRのエッセンスを盛り込んで、その成果を体感してもらいたい。本書がそのきっかけになることを願っています。

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井口理(いのくち・ただし)氏電通パブリックリレーションズ PRプランナー

1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。PRコンテンツ創出を起点とした戦略PRの事例多数。受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、Asia Pacific SABRE Award等。実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。共著にPR実務書の「戦略広報」。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門審査員。

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