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現代宣伝・広告の実務

オリエンテーションからプロジェクト運営まで

キヤノンマーケティングジャパン コミュニケーション本部 岡野 宏

コミュニケーション戦略としてのキャンペーン企画を外部企業へ発注する際のプロセス、オリエンテーションのポイントについて解説します。

Point1

消費者・生活者の視点でマーケティング・コミュニケーションを考え、納得のいくコミュニケーション戦略に落とし込む。

Point2

コミュニケーションの規模や目的に合わせセレクトした依頼方法のメリット・デメリットを総合判断する。

Point3

宣伝スタッフは、自らの結論を常に持ってすべてのプロセスに臨む。

広告はオリエンがすべて

広告はコミュニケーション手法のひとつである。今日ではさまざまな手法が開発されてきているが、今でも広告はマーケティング・コミュニケーションの中核に位置するといっても過言ではない。マーケティング・コミュニケーションはマッカーシーのいわゆる「4P理論」の枠組みを包括し、マーケティング全体としてオーバーラップする機能として展開される。

具体的には商品広告、販売促進、人的販売、商品パブリシティおよびダイレクト・マーケティングの5つの基本的要素に加え、それぞれの要素がクロスされていることを考えてみると、その重要性は語るまでもない。そして、広告を任されている組織としての宣伝部は限りある宣伝予算を合理的に、しかも効果的に運営することを託されている。その重みを真摯に受け止めマーケティング・コミュニケーションのプロフェッショナルになることが必要不可欠である。今回の内容はその前提として、自社にクリエイティブ部門をもたない一般的な企業の宣伝部門を想定として論述する。

ここではマーケティングそのものについては説明しないが、マーケティング・コミュニケーションの基本はおさえないといけない。マーケティング要素の基本は4P。プロダクトアウトかマーケットインか意見が分かれるところだが、まずは「Product」。当然、商品そのものにどんな特長があり、どんな差別化ができているかなどを徹底的に議論している必要がある。商品が良ければ広告で、より多くの売上を見込むことが可能になる。逆に、いくら良い広告ができても商品が悪ければ売上を見込むことは難しくなる。マーケティング・コミュニケーションの基本はあくまでも商品なのだ。次に「Place」。

その商品をどこで売るか、どのルートに流すか、ネット販売はするのかなど消費者との直接接点になる店頭やスペースは大事な位置付けになる。そして「Price」。

価格はSNSの時代に入り、誰もが気軽に情報を得ることを可能にした。量販店でも「弊店より安いところがあれば相談に乗ります」と当たり前に書かれている。最後に「Promotion」。消費者に何らかの行動をさせるために働きかける広義の販売促進には狭義の販売促進(salespromotion)、人的販売、パブリシティ、そして広告がその範疇に入ってくる。

そして、これらの要素を詰めていくプロセスの中で各種分析を実施する。メジャーな分析方法として「STP」が良く知られている。これは「Segmentation」により、市場を細分化するための軸(特徴)を探し出し、その上で狙うべき市場を定め「Targeting」をし、そしてターゲットセグメントにおいてどのような優位性を提案するか「Positioning」するというもので、各々の頭文字をとって「STP」と呼ばれている。

また、マーケティング戦略立案の際に必要なもうひとつのプロセスとして「SWOT」分析も誰もが知っている方法である。これらの分析をした上で、ひとつの仮説を打ち立て商品の市場導入を行う。重要なのはマーケティングだから該当セクションに任せるというのではなく、コミュニケーションセクションもその決定プロセスに関わることだと考える。そもそも、分析による結果は2つのセクションの総意として納得のいくものでなくてはならない。責任の所在を明確化しながらその意思を両セクションの答えとして発信していくことが望まれる。

コミュニケーション部門は大いにマーケティング戦略の構築に首を突っ込むことが、いい結果を生み出す原動力になると考える。

マーケティング戦略が決定し、いよいよコミュニケーション戦略に落とし込んでいくプロセスだが、ここで良く言われる"Whattosay""Howtosay"を絞り込んでいくことになる。

商品の特長は何か、この商品ならではの差別化ポイントは何か、コミュニケーションターゲットは誰か、そのターゲットにどのようにアプローチするかなど、侃々諤々喧々囂々の議論を交わす。そもそもマーケットインの発想で商品化されていれば、結論を導きやすいがそうでない場合はなかなか苦労する。マーケティング要素「4P」に対して「4C」という考え方がある。

Product(商品)ではなくCustomervalue(顧客にとっての価値)であり、Price(価格)ではなく、Cost(顧客にとっての経費)。Place(流通)ではなく、Convenience(顧客にとっての利便性)。そして、Promotion(販促)ではなく、Communication(顧客とのコミュニケーション)という考え方である。

つまり、簡単に言うと「マーケティングの判断基準をターゲットセグメントに置く」という原点回帰の時代になったということだ。

2010年9月に『コトラーのマーケティング3・0』が発刊された。デジタルメディアの普及がここまで進み企業と消費者の関係がフラットになった今、生活者は商品を見ているだけではなく、むしろその先にある何か。すなわち企業そのものを見ている。第一段階の『マーケティング1・0』は製品の機能的価値を求めていた。次に『マーケティング2・0』は機能的価値に加えて情緒的価値を重視するということになった。そして、今は商品・サービスを通じた社会的価値を重視する。すなわち、『マーケティング3・0』に向かっていると提言している。

このように、時代は刻々と変化してきている訳だが変わらないことはひとつ。消費者・生活者の視点でマーケティング・コミュニケーションを考えることだ。

広告は消費者が何を考え、何を思い、何を感じて心を動かすかを検証し財布の紐を緩めさせるかだ。正直、簡単に答えが出るようなものではないと落胆することさえある。それでも我々、宣伝セクションは多額の予算をかけ(小額の場合ももちろんある)、規模の大小は問わずキャンペーンを仕掛けなければならない。キャンペーンの成功か否かを左右するのは、納得のいくコミュニケーション戦略に落とすまでのすべての活動だ。商品を誰よりも研究し理解しているマーケティング担当と消費者と社会まで俯瞰した目を持つことができるコミュニケーション担当がぶつかり合う。「木を見て、森も見る」組織の上下は関係なく、自由な意見を言い合える環境を作ることができるリーダーがいれば第一段階は成功したと言えるだろう。

宣伝部が付き合う外部企業の種類と特性

コミュニケーション戦略をいよいよ外部に発注する段階に入る。広告業の種類はどのようなものがあるのか。

まず初めに、広告会社。日本の広告会社はそもそも、"メディアの代理店"としての広告代理店として活動してきたが、広告を取り巻く環境が変化し、今はサービスをした分だけ対価をいただく方針(フィー制度)に切り替えてきている。たとえば、マーケティング作業の対価も広告主からフィーを受け取るビジネスに転換しつつある。

広告会社にはさまざまなスタッフがいるが、それらを束ねクライアントに対峙するのは営業の仕事である。広告会社への発注に関する一般的な仕事の流れを記述する。

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