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海外レポート

勝利のカギを握る「マグネティックコンテンツ」とは?

ブルーカレント・ジャパン 本田哲也

デジタル、ソーシャルメディアが浸透し、企業が消費者とダイレクトにつながることができる時代。従来の広告とPR、デジタルとアナログといった手法、メディアの境界線は溶解しつつある。こうした時代に、マーケティング機能はどうあるべきか。また変化する広告主に、エージェンシーはどう対応していくべきか。

PRエージェンシー、ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長CEOの本田哲也氏は、PRとデジタルさらにクリエイティブの融合にその可能性があると考え、3月に渡米。東海岸ではAKQA、VML、西海岸では180とEVBの4つのデジタルクリエイティブ・エージェンシーを訪問。氏が各エージェンシーのマネジメントと面会し考察した、PRとデジタルの融合の可能性、その近未来をレポートする。

次世代に向けた変革動き始めた巨大広告主

来たるべき時代に対応する新しいマーケティング実行体制を早急に構築せよ―世界的に知られるブランドを有する巨大広告主では、トップマネジメントの号令のもと、マーケティング組織全体の変革が進んでいる。ここで重要になってくるのが、言うまでもなく、まずは「デジタル/ソーシャルを根本的にどう自社のマーケティングプロセスに組み込むか」ということと、「PR(いわゆる戦略PR)をどうペイドメディアやプロモーション、デジタルと統合していくのか」ということだ。

この2つは便宜上、別々に議論されているようにも見えるが、根本的には同じ課題だと僕は思う。こうした対応への基本ポリシーを策定したあと、まずは社内の組織や指揮命令系統の再構築、さらには広告会社やPR会社、デジタル・エージェンシーなどの外部パートナーとの「お付き合いの仕方」の模索を開始している、というのが現状だろう。

今回、僕はオハイオ州シンシナチにあるP&Gのグローバル本社をまずは訪問した。言うまでもなくP&Gはこれまで世界的に見てマーケティングのトップランナーであり、まさに前述の大きな「変革」を果たそうとしている代表格といえるだろう。僕はP&Gと仕事をして10年になるが、さすがにシンシナチ本社を訪ねたのはこれが初めてだった。中西部らしい落ち着いた街並み。古き良き時代には蒸気船が頻繁に行き来していたであろうオハイオ川。宿泊先のウエスティンホテルから徒歩10分の場所にあるP&G本社は、想像していた「巨大なビル」ではなく、どちらかといえば「国会議事堂」に近い印象。重厚な石造りで、本社前には各国の国旗がはためいている(これは主要マーケットの国旗らしい。もちろんそこには「日の丸」の旗も)

P&Gはすでに、いくつかの新たな組織変革を実行に移している。そのひとつがPR部門の変革だ。これまで「ER(External Relations)」と呼ばれる組織が、企業広報からブランドPR、外部の有識者や組織との渉外、カスタマーサポートといった、「P&Gの外部利害関係者とのリレーション」をカバーしてきた。このER部門は新たに「Communications」という部門名に変更され、最終的な統括責任者はCMO(チーフマーケティングオフィサー)となり、新たな使命が加わった。「Social Engagement」つまり「消費者との直接的なキズナづくり」という重要なミッションを課せられたのだ。こうした観点から、マーケティングの変革 ―予算配分の最適化やエージェンシーの見直しなど ―が推進されている。それもグローバルに。今回、僕たちがシンシナチで話した詳細に触れることはできないが、打ち合わせた相手にはプロキュアメント(日本でいう購買調達部)の責任者もいた。どの外部リソースをどう使うのがベストなのか ―これがP&Gのような企業の目下の重要課題のひとつである。世界中のエージェンシーにとっては戦々恐々ともいえる状態だが、このように広告主とエージェンシーのバリューチェーンは再考され、次世代のマーケティングエコシステムは徐々にその姿を現そうとしている。

急成長するデジタルクリエイティブ・エージェンシー

マーケティング環境や消費者の変化に呼応するべく、広告主の変革が始まろうとしている。一方で、我々エージェンシーサイドに起こりつつある変化はどうなのか。このヒントは、欧米を中心にここ数年で大きく台頭してきた「デジタルクリエイティブ・エージェンシー」と呼ばれる企業群にある(本稿では、「決めゴト」として彼らをそのように総称する。

実際のところ、その領域はデジタルやらエージェンシーやらの概念を超え始めているし、彼らも現時点で規定されることを嫌う。チーフ・クリエイティブ・オフィサーが「広告界のイチロー」とも呼ばれるレイ・イナモト(稲本零)氏が担っていることもあり、AKQAが日本では有名だろう。その他、VML、R/GA、Razorfish、SapientNitro、180、Digitas、EVB...新興エージェントまで含めればキリがないのだが、あえて僕が彼らの特徴をあげるとすれば、従来からある「クリエイティブ・エージェンシー」と「デジタル・エージェンシー」のどちらとも定義できないことだろうか。

長い間、広告クリエイティブあるいはアートディレクションの世界で活躍してきた数限りないクリエイティブ・エージェンシー。2000年前後のいわゆる「ドットコム・ムーブメント」を経て、媒体としてのデジタルを強みとして存在を増したデジタル・エージェンシー。そしてここ数年、そのどちらともいえない(あるいは双方が融合した)発想とアプローチで存在感を増しているのが彼らだ。代表格のAKQAはほぼ10年で全世界1500名の規模まで成長した。VMLも同様に1500名とその規模を拡大している。

今回の米国滞在では、東海岸ではWPPグループを代表するAKQAとVMLのニューヨークオフィス、西海岸でオムニコムグループに属する180のロサンゼルスオフィスとEVBのサンフランシスコオフィス、計4社を訪問しマネジメントと面会。戦略PR会社という立場の僕と彼らとの間で、非常に有益な意見交換や将来ビジョンが語られた。

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