日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

           

広報担当者の事件簿

下請け企業から届いた告発 暁新聞社会部の本気〈完結編〉

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    【あらすじ】

    副社長を含む3人の役員による粉飾決算が明らかとなった浅津電気。ついに地検による強制捜査が入った。広報部の川北琢磨は逮捕された3人が連行される姿をテレビ画面で見ながら無力感に襲われる。そして200人以上のメディアが集まった記者会見で、社長の小石川雄作は想定問答とは違う回答を口にしはじめた……。

    地に堕ちた信用を取り戻す

    =浅津電機に強制捜査 役員三人を特別背任容疑で逮捕=

    テレビ各局が通常番組内に速報としてテロップで報じた。番組を中断して、浅津電機本社前からの中継に切り替える局もあった。「先ほど特捜部が浅津電機本社の家宅捜査に入りました」リポーターが興奮した口調でマイクを握っている。

    暁新聞社会部のフロアにはテレビが9台設置され、国内外のテレビ局の映像が流れている。民放は浅津電機一色だった。「もっと気の利いたこと言えないかね」デスクの長門俊平が不満そうな表情をつくる。「テレビは映像があればなんとかつなげられるからな。いつもこんなもんだろう」社会部長の籠原真治が組んでいた両腕を解く。

    「現場からはその後連絡はないか」「動きはまだないようですね」世の中に衝撃を与える事件報道には膨大な時間が費やされている。わずかな綻びを見つけ出し、地道な取材を積み重ねていく。

    取材が無駄になったことは数えきれない。むしろ無駄になるのが当たり前だと思わなければやっていられないときもある。それでも現場の記者は真実を報道するための労苦を惜しむことはない。“百当てて一成就すれば良し”籠原はそう言い続けてきた。

    地検が動いていることが分かった時点で、“事件”になる。事件になればおそらく家宅捜索が行われる。長門らはそのときに備えた下取材を徹底的に行っていた。裏付けを取り、証言を引き出す現場記者の取材力が財産だった。

    胸ポケットで長門の携帯が振動する。「長門」「赤塚です。広報に探りを入れたら検察が入ることは事前には知らされていなかったようです」「広報が知らなかっただけじゃないのか」「本丸の財務も役員連中も知らなかったようです。ただし……」赤塚周大がくちごもる。

    「なんだ」「ちょっと移動します」近くで聞き耳を立てている奴でもいるのだろう。「役員の何人かは数日前から自宅には帰らず、予想どおりホテルに缶詰め状態を続けていたようです」「今回の3人か」「そのようです。それと、広報部長が2、3週間ほど前に退職しています。今回の件と何か関係が...

あと80%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

広報担当者の事件簿 の記事一覧

下請け企業から届いた告発 暁新聞社会部の本気〈完結編〉(この記事です)
下請け企業から届いた告発 暁新聞社会部の本気〈後編〉
下請け企業から届いた告発暁新聞社会部の本気〈中編〉
下請け企業から届いた告発 暁新聞社会部の本気〈前編〉
15年前に起きた突然の災害犠牲になった母への思い〈後編〉
15年前に起きた突然の災害 犠牲になった母への思い〈中編〉
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する