【あらすじ】
浅津電機の実態について口を開いた、下請け企業の社長が自殺した。暁新聞社会部デスクの長門俊平は、共に取材を進めていた杉下祐作、赤塚周大と通夜に参列する。その帰り道、部長である籠原真治の指示で、3人は浅津電機本社へのガサ入れを取材すべく動き出す。同じ日の夜、浅津電機では緊急会議が開かれていた。
社会の監視者としての矜持
「いきなりですね」デスクの長門俊平は、社会部部長の籠原真治に声をかけながら自分の椅子にジャケットを放り投げる。「2人は着いてるか?」「取材を始めてますよ」
浅津電機の件で口を開いてくれた取材先の社長が自殺した。長門は部下の杉下祐作、赤塚周大と通夜に参列し、無言で駅に戻る道すがら、携帯に籠原から連絡が入った。そこから杉下は浅津電機へ、赤塚は地検(東京地方検察庁)に向かい、長門は状況確認のため社に戻った。
「まだ連絡はないか」「すぐには無理ですよ」「だよな」おそらく他のメディアも同じタイミングで動いているはずだ。「今夜、動きますかね」おそらく明朝9時に検察が令状持参で浅津電機本社にガサに入るだろう。「特落ちだけ気をつけろ。うちだけ本丸ネタの書き損じは許されない」
暁新聞は俗にいう特ダネで他社を圧倒してきている。記者個人の能力もさることながら、籠原が社会部の長に就いてからは組織力でも抜きん出ている。長門の人望がそうさせていることが大きかった。「明日だろう。今夜中に検察から情報が取れればいいけどな」籠原が椅子を回転させ窓外を見やる。何かを考えるときのクセだった。
2時間経過しても電話は鳴らなかった。籠原は窓に身体を向けたまま動かない。その時、机に置いた携帯が振動した。画面を確認すると赤塚からだった。「長門」低い声で出る。「明日8時、入ります。副社長、専務、2人いるうちの常務ひとりの3人が特背で引っ張られるようです」「誰の情報だ」長門の心拍数が上がる。「特捜の次席です」次長なら確度が高い。「もう少し裏取りしてくれ」「分かりました」
「どっちだ」籠原が浅津班からなのか地検班からなのかを聞いてくる。「地検です」赤塚の報告をそのまま伝える。「地検の駐車場に誰かやってくれ」駐車場は地下にあり、明日動きがあるとすれば今夜のうちに準備が進められるはずだった。
浅津電機以外の取材をさせていた若い記者の携帯を鳴らし、赤塚と合流するよう指示する。そこからまたジリジリとした時間が過ぎていく。壁に掛けられた時計の針は3時を指している。長門の携帯がまた振動した。杉下からだった。
「浅津の窓が1か所だけ灯りが消えない...