【あらすじ】
暁新聞社会部に届いた複数の告発文から、長門俊平や杉下祐作、赤塚周大らは浅津電機の闇を暴くべく動き出す。杉下らの熱意に、下請け企業の社長や社員たちも、少しずつ重い口を開き始めていた。その頃、浅津電機の広報部次長である川北琢磨は、ある違和感から最悪の事態を想定していた。そして状況が動き出す。
得体の知れない闇
「取材を受けてさ、それが浅津(電機)にバレたらうちは出入り禁止だよ」そんなことはさせないさ。パソコンに向かいながら暁新聞社会部の杉下祐作が呟く。
それは下請け企業の社長が苦虫を噛み潰した顔で言った言葉だと、同僚の赤塚周大から聞いていた。「取引相手の浅津電機から切られたら生きていけない」という恐怖心が、彼らの口を重くしているのだろう。
「海外企業との競争力」をテーマにした連載の取材だと伝えて浅津電機を訪れた際、面倒臭そうな態度で対応してくれた二人の広報担当者(次長の川北琢磨と中眞真也)には、“粉飾”の話はまだ降りてきていないはずだ。ソファに背中をあずけた横柄な姿がそう確信させた。
連載を予定しているのは事実だが、業績動向、技術、研究開発、人材の面から多角的に取材をするなら、他の業種を深掘りする。韓国や中国企業に押され、今では日本企業自体が下請けに成り下がっている電機業界を勇んで取材するメディアなどあるだろうか。井の中の蛙という言葉が浮かぶ。
彼らの上から目線の対応はメディアに対してだけでなく、取引先にもきっと同じ態度だろうと想像がついた。浅津電機で働く社員は自分たちだけで売上を伸ばし、利益を上げていると思っているのだろう。記者という職業に就いたときに読んだ本の一節にこんなくだりがあった。
「取引先が頭を下げるのは企業の看板に対してだということを理解できないまま、ほとんどの人が会社員人生を終えてしまうことに哀れさを感じる。退職後に事業を興し、溜まっていた名刺を頼りに連絡すると相手にされなかった。そのとき、初めて企業の看板に守られてきたことを痛感した」以来、杉下はこの一節を取材ノートに挟み込んでいた。
「暁新聞の取材、どうします?」中眞が川北に顔を向ける。一昨日、社会部の杉下という記者が訪ねてきたときのことだった。「……そうだなあ。事業部に話を持っていったところでいい顔はされないだろうな」川北が渋面をつくる。「うちはもちろん、業界のいい顔はされないだろうな」川北が渋面をつくる。「うちはもPRとしてもいいタイミングだと思うんですけどね」中眞が前向きな口調で言う。
「ん?どういう意味だ?」...