【あらすじ】
暁新聞社会部の杉下祐作のもとに届いた1通の封筒。中には浅津電機株式会社に対する告発文。普段は「そんなもんほっとけ」と言うデスクの長門俊平が珍しく興味を示す。実は長門のもとにも別の企業から同様の告発が届いており、さらに別の2社からも同様の告発が寄せられた。そして1カ月後、杉下たちが動き出す。
四社から届いた切実な告発
机の上に封筒が置いてあった。「中関工業株式会社?聞いたことないな……」宛先は編集部となっている。きっと告発めいた紙が同封されているのだろう。
「ここは雑誌社じゃねえんだよ……」つぶやきながら乱暴に開けると、A4の紙に文字がびっしりと印字されていた。受注書と書かれた帳票のようなものを含めると10枚以上入っている。表題には“浅津電機株式会社に対する告発”とあった。「またか……」杉下祐作が溜息を吐く。
「朝から浮かない顔してるねえ」上司で社会部デスクの長門俊平が杉下の肩を叩く。「またですよ」「売りか」売りとは告発を意味する社内の隠語だった。「当事者で解決できないんですかね」「できないから送ってきてるんだろうよ。電機、自動車の不祥事は今さら驚かない、歴史が物語ってるだろ」
長門が眉間に皺をつくる。「そこにいる人間の資質の問題だ。自制心と理性が麻痺してるんだろうな。ちょっと見せてみろ」長門が手を伸ばしてくる。「追いかける価値があるか読んでみる」いつもなら「そんなもんほっとけ」と素っ気なく言うはずの長門の目が真剣だった。「興味あるんですか?」気になった杉下が尋ねると、何も言わずに長門が自席に歩いていく。机の引き出しから封筒を取り出すのが見えた。
「杉下」長門が手招きする。「これ読んでみろ」封筒を向ける。「何ですか、これ」「まあ、読んでみろ」そう言うと、長門は杉下から受け取った封筒の中身を自席で読み始めた。
封筒にはA4の紙が20枚も入っていた。“浅津電機株式会社の粉飾について”とある。「浅津電機?」差出人は磯河工業株式会社。「これいつ届いたんですか」「先週だ」そして、数日後。さらに別の二社から浅津電機の不正が詳細に書かれた“告発”文書が届いた。「全部浅津の取引先だ。内部事情に詳しくないと書けない内容ばかりだ。これは根が深いかもしれないな。気を入れて取り掛かるぞ」長門が部員たちに号令をかけた。
「暁新聞社会部の杉下といいます。御社の決算のことで、担当部署の方に話をお聞きしたいことがあります」浅津電機広報部に問い合わせてみる。「決算のどんなことでしょうか」応対したのは中眞という広報担当者だ。
電話をかけるまでの1カ月間、…