「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
逆風の中で企業の存在意義を示す
近年になって、日本の多くの産業が成熟期を迎え、一部は衰退期に入っているとも言われている。グローバル化や技術革新の加速、消費者の価値観の多様化など、企業を取り巻く環境は日々大きく変化している。その中で生き残りを図るためには、従来の常識にとらわれない、新しい視点での広報戦略が不可欠である。特に衰退産業においては、市場の縮小や競合との競争激化といった逆風の中で、いかに企業の存在意義を示しつつ、ステークホルダーとの信頼関係を維持していくかが問われている。今回は、衰退産業における広報の役割と重要性を改めて認識し、効果的な広報戦略の立案と実行に必要な企画書の書き方を、具体的な事例を交えながら解説していきたい。衰退産業ならではの課題や困難を乗り越え、新たな成長への道筋を切り開くヒントとなることを目指している。
視点1
衰退産業の広報戦略
衰退産業における広報の役割とは?
衰退産業とは、かつては繁栄したが、現在は市場縮小や業績悪化に直面している産業のことである。需要の減少、技術革新の遅れ、競争激化による市場シェアの低下が主な要因とされている。環境規制の強化や消費者のライフスタイルの変化も影響しているものと考えられる。具体的には、製紙業、繊維業、伝統的な製造業などが該当する。
衰退産業における広報の役割として、大きく以下の4つが挙げられる。
● ステークホルダーとの信頼関係の維持
衰退産業においては、企業を取り巻くステークホルダー(顧客、従業員、株主、取引先、地域社会など)の不安や不信感が増大しやすい。広報部門は、透明性と誠実性を重視したコミュニケーションを通じて、これらのステークホルダーとの信頼関係を維持・強化し、企業への理解と協力を得ることが求められる。
● 新たな市場機会の探索と発信
衰退産業であっても、新たな技術やサービス、ビジネスモデルの導入によって、新市場を開拓できる可能性は十分に残されている。広報は、市場調査や競合分析を通じて、潜在的な市場ニーズと機会を発掘し、効果的に社内外に向け発信することで、企業の成長を牽引する役割を担う。
● 企業価値の再定義と発信
衰退産業の企業は、過去の成功体験にとらわれることなく、自社の強みと弱みを客観的に分析し、新たな価値を創造していく必要がある。広報は、自社の価値の再定義を行い、ステークホルダーに効果的に伝えることで、企業ブランドの再構築を図る。
● 従業員のモチベーション維持
従業員の士気低下や人材流出のリスクが高まるため、広報活動においては、社内コミュニケーションを活性化し、経営陣のビジョンや戦略を共有することで、従業員のモチベーションを維持し、一体感を醸成する役割を担うことが重要である。
筆者のこれまでの経験上、衰退産業における広報部門の役割は、まさに企業の浮沈を左右すると言っても過言ではない。企業イメージの悪化や従業員のモチベーション低下、そして優秀な人材の流出など、広報担当者が直面する課題は山積しているからこそ、広報の力で企業の再生と成長を牽引できる重要な機会だと考えている。
事例1
日本の製紙業界の新たな挑戦
日本の製紙業界は、デジタル化やペーパーレス化の影響で印刷用紙の需要が減少している。しかし、包装材や衛生用品などの需要は依然として存在しており、企業は新たな需要の開拓や技術革新を通じて活路を見出している。
王子ホールディングスは、環境保護活動を積極的に推進している。植林活動や再生紙の利用促進などで企業イメージを向上させ、「環境ビジョン2050」を掲げ、バイオマス発電や新素材開発など事業の多角化を進めている。また、「紙のまち苫小牧」でのプロジェクトやバーチャル工場見学など独自の広報活動を通じて企業活動や環境への取り組みを発信している。
中堅製紙メーカーの中越パルプ工業は、セルロースナノファイバー(CNF)の開発・製造・販売を通じてパルプの価値を再定義している。CNFは自動車部品、食品包装材、化粧品原料など多様な分野で応用開発が進められている。同社は技術展示会への参加や産学連携の推進、ウェブサイトでの情報発信、工場見学の受け入れなど独自の広報活動を展開している。
衰退産業とされる製紙業界において、企業が長期的視野に立った広報戦略や事業戦略を展開することで、新たな価値を市場に創造し、持続的な成長を目指すことができる。デジタル化の波にただ飲まれるのではなく、自社の持つ先端技術を活用し、新たな需要の開拓を行うことで、日本の製紙業は今後もその存在意義を示し続けるだろう。
衰退産業における広報戦略の立案ポイント
衰退産業における広報部門の戦略を考える上で、経営戦略の権威マイケル・ポーターの理論は重要なヒントを与えてくれる。広報戦略は経営戦略と密接に連携しており、衰退期の企業においても経営戦略を効果的に支援していくべきである。ポーターは衰退産業において企業が取りうる戦略として、業界で生き残りを図る「リーダーシップ戦略」、需要が続くセグメントで強力な地位を築く「ニッチ戦略」、キャッシュフローを確保する「収穫戦略」そして「早期撤退戦略」の4つを提唱した。例えば、ニッチ戦略を選択した企業においては、広報部門は特定の市場セグメントでの自社の強みを効果的に発信していくことが求められる。経営戦略に即した広報戦略の立案ポイントとして、以下の5つが挙げられる。
● 現状の徹底的な分析
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